ロックスターによろしく(前編)(the band apart @心斎橋BIG CAT 2014 06/08)
どうでも良いバンドの成功は本当にどうでもいいものだけど、バンアパはずっと負けたくないって思いながらやってた唯一のバンドだった。バンアパがイケてると嫉妬した。イケてないと頭にきた。そのギザギザのせいで、僕は面倒くさがられてるもんだとばかり勝手に思ってたから、誘われて本当に嬉しい。
「青春はバンアパとドーパンです」って言えちゃう人は本当にセンスがいいのさ。
(フルカワユタカ OFFICIAL WEBSITE 5/28の日記より)
the band apart(以下バンアパ)の新作"BONGO e.p."リリースツアーが幕を開けた。
新作の出来が素晴らしかっただけにツアーへの期待も高まるが、2014年に入ってからバンアパの首都圏でのライブはほとんどが平日か土曜日。東京在住だが日曜しか仕事の休みがない僕は、指をくわえて見送るだけであった。そうして2014年もそろそろ半分が終わるころ、今回のツアー日程が発表される。
首都圏は、6月27日(金曜日)の東京のみ。
バンアパファンになってから半年以上もライブを見られないのは初めてで、フラストレーションは限界値に。僕はもはやくわえすぎて噛みちぎれんほどになった指をぶらさげ、この日曜日にツアー1本目を見に行くため大阪弾丸ツアーを強行した。
初めて踏む関西の土地。耳元に飛び交う大阪弁。551蓬莱の豚まんを頬張りながら、BIG STEP 4階にある会場 BIG CATへ向かう。
この日のゲストは元DOPING PANDA(以下ドーパン)のフルカワユタカ。
ドーパンとバンアパ、といえば、2002年の年間対バンイベント"mellow fellow"、そしてそこから生まれたコラボ曲"SEE YOU"が生まれるなど、かつてはごく近くで肩を並べながら切磋琢磨してきた間柄だ。
SEE YOU ‐DOPING PANDA & the band apart - YouTube
ところが、それだけ近しかったこの2バンドは、ある時期を境にぱったりと共演しなくなる。僕はその時期を直接は知らないので、ネット上の噂でしか聞いたことがなかったのだが、数年前にこの2バンドの間に決定的な衝突が起きた、という情報が耳に入っていた。2012年、ドーパンの解散時にもバンアパは姿を現していないことから、「不仲説」はいよいよ色濃くなっていく。
ドーパンはもう無くなってしまったが、今回、何年かぶりのフルカワとの共演。
リリースツアーのゲスト、しかも1発目という重要な位置に声を掛けたというのは、何を意味していたのだろうか。
18時、オープニングSEとともにフルカワユタカトリオが登場。
自称(および愛称)「ロックスター」 のフルカワが「オーサカー!」と得意の地名シャウトとともにメロディアスな歌声と、テクニカルなギターを送り出す。
「スター」の名は伊達ではない。堂々たるステージだった。
ところが、MC中の彼はどこかバツが悪そうだ。
「本当に嫌われてるのかなと思ってたところに声を掛けられてですね」と笑いにするところを見ると例の件がネタなのか本当なのか捉えあぐねていたが、トリオのベーシストである村田シゲ(口ロロ)が、
「ご存じのとおり犬猿の仲ですから!!」
「いやいやいや、みんなのしこりはまだ消えませんよ!!」
「今日は火種しかないですからね~!!」
と地雷を踏みまくる。何かがあったことは本当らしい。
「酒のせいで勢いあまってしまって」と弁解するフルカワだが、その後に出た
「好きすぎるからつい意地になってしまう」
という言葉は本音なのだろう。
来月にアルバムを出す荒井のソロプロジェクトでもサポートを務める村田は、この両者の橋渡しとして重大な役割を果たしていたのかもしれない。
フルカワが約40分のステージを終え、19時ちょうど、場内が真っ暗になると、録音されたドラムとパーカッションのビートがスピーカーから流れ出す。この日の朝に更新された荒井のブログで触れられていたが、「今回のツアー用の入場SEを作ってみた」とのこと。どうもこれがそうらしい。
バンアパがオープニングSE……?珍しいこともあるもんだ。
しかしこのSEのビートはどこか馴染みのある耳当たりである。そう、間違いなく木暮栄一のドラムだ。なるほど、SEを「作ってみた」というわけか。
しかし、それだけならわざわざ用意する意味もない。いったい何が狙いかといぶかるうちに、暗いステージでメンバーが楽器を構える。
すると、スピーカーのビートに乗って、低い話し声が流れる────
「…続いてのお便りは、東京都 千代田区 永田町にお住まいの、アベ シンゾウさんからの一句です。」
……これは……"ag FM*1"……!?
なぜ投稿者が首相の名前なのかはさておき(たぶん適当にチョイスしたのだろう)、原昌和の声と思われる低いつぶやきが発する5・7・5が観客を引き込む。
「『漢気じゃ 飯も食えない 夏の朝』『漢気じゃ 飯も食えない 夏の朝』」
このフレーズは、
「…馬鹿が3秒で考えたとしか思えない、糞みたいな一句ですね。」
この聞き覚えのあるビートは、
「それでは、ここで一曲。ザ・バンド・アパートで、」
────この曲から、ツアーが始まる。
『誰も知らないカーニバル』
SEのタイトルコールと同時に照明が点灯し、演奏開始。客席から歓声が上がる。
7か月ぶりに見るバンアパは、物凄く大きい。物理的にも、そしておそらく精神的にも。
"BONGO e.p."のツアーなので、サポートにパーカッションが入るのかと思っていたが、いつもの4人だけでやるらしい*2。
しかしこうして聴いていると、ボンゴ(レコーディングで使ったのはコンガだが)がなくても全く違和感なく成り立つものなのだなと妙に感心した。
"カーニバル"の後は、大定番の"higher"。何百回とライブで演ってきたこの曲は、年を追うごとに間奏での木暮のドラムパターンが複雑になっていく。久しぶりに見たこの日、またいちだんと進化していた。
ラストのサビの前にある2カウントでは、ファンの間で「ワン・ツー!」と叫ぶのがバンアパファンほぼ唯一の暗黙知になっている。このアクションに賛否両論はあるだろうが、長く待っていた僕もこの日は叫ばざるを得ない。ワン・ツー。
そして"higher"のアウトロから加速してそのまま"photograph"へ。
ミドルテンポの曲が続く序盤、ウオーミングアップが済んだところで最初のMCに。
原「フルカワは天狗みてーなやつだと思ってる人もいるかもしれないんだけど、あいつ全然そんなことないから。あいつはもうすごいツンデレなんですよ。」
(客「原さんと似てるー!!」)
原「いや俺は全然そんなことないですよ。ところでライブの前に大阪の街を歩いたんですけど、ホントにタコ焼き以外何もねえなこの街は。糞みたいな街ですよ。」
(客笑)
原「じゃあこの中でタコ焼き以外に大阪のいいところ言える人? ないだろ?」
文字にするとタダの嫌な人にしか見えない 、原のツンツンデレっぷり*3から始まったこの日のMCは、ほとんどがフルカワ絡みのもの。
この後、"Rays of Gravity"、"ノード"の高速ナンバーで一気に場内のテンションをぶち上げた後、荒井の口から「バンアパ・ドーパン不仲説」の真相が語られる。
「フルカワと俺が仲違いしてたのは本当で、きっかけは共通の知人の結婚式の二次会で大げんかになったんです。
フルカワがだいぶ酔っぱらって、何か『俺は日本で80位くらいにギターが巧い』とか言いだすの。で、そのときはハイハイうるせーなぁくらいに流してたんだけど、だんだん調子に乗ってきて『お前は俺に習いにくるべきだ、何もかも』とか言ってきて。その辺でこの野郎ってなってケンカに。それ以来顔を合わせなくて。」
「それでこの前の大阪城野音の弾き語りイベントで久しぶりにあったときに、どんな態度で出るのかなと思ってたら、何かやたらかしこまって『あのときのことはもう触れないでくれ』みたいな。(会場笑)
だからうちのバンドと、ていうか俺ひとりと仲が悪い状態が続いてたということなんだけど、それを修復するというか。」
それが真実だったのか。どうやら本当にちょっとした酒の席のトラブルらしい。
原「さっきフルカワがさんざん酒が怖いとか言ってたけど、もう今夜の打ち上げの前フリとしか思えないよね。」
荒「どうしようか、またケンカになったらツイキャスでもしますよ。」
原「じゃあケンカするときはお互い自分のバンドのTシャツ着てやるべきだな。」
爆笑する場内。スターをいじり倒して和んだ会場は、ライブ中盤のポップチューンに包まれる。
"クレメンタイン"、"Flower Tone"で穏やかに揺れるフロア。
そして、僕らはこの後に、この大阪のステージでしか見られない光景を目にする。
*1:1stアルバム"K AND HIS BIKE"で"Eric. W"の前に挿入されているスキットトラック。
「続いては、東京都 練馬区 カケガワ マサヨシさんからの一句です。『木曜の晩には誰もダイブせず』『木曜の晩には誰もダイブせず』。涼しげな、夏の終わりを想起させる、打ち立ての新蕎麦のような佳作ですね。それではここで一曲。ザ・バンド・アパートで、"Eric. W"。」
の前振りは、ダサさとその後のEric. Wの爆発的なカッコよさがないまぜになった伝説的なイントロになっている。
*2:レコーディングでパーカッションを叩いたエンジニアの速水氏は2日前くらいに手を怪我したというツイートがあって心配したが、もともとツアーで演奏はしない予定だったのか。
*3:この後のMCで原は先の暴言を謝り、「本当は素直にありがとうと言いたいけど、キャラを作らなきゃやってられなくて…」としおらしくなってからの、「やっぱ糞みてえだな!」と再びツンに戻るをくり返す。