曲書緩想文

もともと音楽の話ばっかりしてました。今はよくわかりません。

脱力と情熱のあいだ(HINTO @渋谷CUTUP STUDIO 2014,08/12)

TOWER RECORDS渋谷店といえば、地上8階、地下1階建ての言わずとしれた国内最大規模の店舗だ。

「デカすぎて目当ての売り場に行くのが面倒」「マニアックなものは何だかんだで置いてなかったりする」等々の批判はあれど、あの広さはいつ行っても心躍る。

 

さて、その地下1階には"CUTUP STUDIO"と名付けられたイベントスペースがある。HINTOの2ndアルバム"NERVOUS PARTY"のタワレコ購入者限定ライブのため、僕はそこを訪れた。

 

NERVOUS PARTY

NERVOUS PARTY

 

 

前回ここに来たのは確か2011年の暮れ(当時は「STAGE ONE」という名前だった)、the band apartのライブDVD購入特典ミニライブだった。あのときは会場にパイプイスが並べられ、ステージも簡素。内容も30分そこらの弾き語り&トークライブだった。「だった」というか、それ以外にやりようがない。

それでも、わざわざワンフロアぶんイベント用のスペースがあるだけでもさすが渋谷店*1といった印象だし、インストアライブのクオリティというのはどうやっても「そういうもの」になるんだと思っていた。別に不満はない。

 

だから今回も「まあCD購入特典だしな…」と、軽く弾き語り的なものを想像していたのだが、その予想は見事に裏切られる。

良い意味で。

 

タワレコ渋谷店は2012年の終わり頃、リニューアル工事によってフロアの構成がガラリと変わった。

それによって生まれ変わった地下イベントスペースはステージを広げ、フロアを拡張し、後ろにはPAブースも設けられ、ほぼ毎日のようにインストアイベントが行われている(らしい)。

 

3年弱ぶりに地下へ降り立つと、まずコインロッカーが目に入ったことに驚いた。

「インストアイベント会場にロッカー…!?」と訝りながらフロアに入る。

広い。というか縦に長い。ステージが遠くに見える。

受け取ったチケットの整理番号は220番。僕が入った時点で7割程度の埋まり方だったので、キャパはおよそ300、新代田のFEVERや下北沢のERAなどと同程度の広さか。

 

さらにこの日は営業していなかったけれどバーカウンターの存在も確認。天井にはミラーボール。両脇にモニター(ライブが始まるまではHINTOの"アットホームダンサー"、"シーズナル"のMVが繰り返し映し出されていた)。トイレの近くには一時離脱用喫煙ルーム。

 

そして入り口から左に目を投じると、HINTOの物販がしっかり設営されていたので、ステッカーとタオルを購入。いよいよ普通にライブっぽくなってきている。

ところでこの会場に来ている人間は(参加資格的に)全員新譜を買っているはずだが、そこに新譜が売られている(しかも微妙に値引きされていた)ことにちょっと笑いが。もしや布教、もといプレゼント用を見越して……。

 

それはさておき、これはもうどう見ても立派なライブハウスだ。まさかここまで力の入った造りになっているとは。

 

 

そんなわけでまず会場自体から「ミニイベント」の空気が払拭されたわけだけれども、ライブの内容も半端じゃなかった。

 

19時40分少し前、オープニングSE(SEがある時点ですでに本格的)とともにHINTOの4人が現れると、いきなり演奏開始。1曲目は新譜から"アイノアト"だ。地下のステージなのにサングラスをかけた安部コウセイが胡散臭さ前回だが、1発目から声もよく通り、演奏もガッチリ噛み合う。

1曲終えるとコウセイは「短い間ですけど、楽しんでってくださいー」と簡単な挨拶をした。この時「短い間」というのでやはり曲数はそんなにやらないのかと思っていたのだが……。

 

挨拶もそこそこに、そのあとは一気に4曲連続。

"マジックタイム"の後に1stアルバムの"トキメキドライ"を演奏したとき、「あれ、これはもしや…?」と思う。いやだって新譜の発売店舗イベントに旧譜の曲って普通やらないような(ちゃんと企画した「レコ発ライブ」ならともかく)。

 

ドリンクがないので観客もほぼ素面のはずだが、すでに大盛り上がり。これで30分程度で終わってしまったらこのテンションのやり場をどうするのか。

 

圧倒されたのは5曲目の"エネミー"。

アルバムだと比較的目立たない曲だったが、この曲はライブで化ける。

前半は照明を落とし、淡々と刻むように演奏していたが、だんだん後半になるにつれて強くなっていく。気がつけばコウセイは叫ぶように歌うようになり、安部光広も伊東真一も菱谷ビッツも鬼気迫る演奏で動きも大きくなる。

静から動へ。これまでのHINTOの楽曲にはなかった盛り上げ方だ。これは間違いなく今後のライブでもキラーチューンになるんじゃないか。

ここまでで5曲。あまりのエネルギーの放出ぶりに、ほとんどMCナシなのにもうライブは終盤かと思った。

と、大歓声を受けたコウセイが息をつきながら「ここでライブ終わってもいいくらいの感じだったんだけど」と言う。つまり、まだまだ続く。

ここで確信した。この日のライブは、「ミニ」ではない。

 

コウセイ「何かね、タワレコのホームページの詳細に『ガチライブ』って書かれてて。やけんウチらもガチライブやるしかないなと」

光広「あれ自分で考えたんじゃないんだ」

コウセイ「いや、タワレコの人が考えてくれたんじゃない? 勝手にハードル上げてさ」

光広「じゃあやっぱ今の"エネミー"が勝負じゃん。ガチ感出すのの」

コウセイ「今ので体力の8割使ったね。おじさんやけん、もう座りたいもん」

 

上がりきったテンションを、一度"シーズナル"でクールダウン。


HINTO 『シーズナル』 - YouTube

夏の始まりは、好きな人には期待を、嫌いな人には憂鬱を与える。けれども、好きだろうと嫌いだろうと、その終わりはどちらも淋しい。

MVも素晴らしいが、ライブで聴くこの曲も心に刺さる。夏に良い思い出があっても嫌な思い出があっても、聴いてほしい曲だと思う。

 

 

"シーズナル"をインターバルにして、伊東とビッツにも話を振るコウセイ。伊東には「ネコ語でもいいから喋ってよ」と無茶ぶりし*2、ビッツには流行りの「LINE詐欺」が来た話をさせる。

「インストアってこんな感じでいいのかな」

と言うけれど、どう見てもいつもどおりです。

 

 

後半戦はコウセイの

ロッキンオンジャパンフェスに負けるなー(小声)」

という小芝居で始まった。

HINTOはMCで「いくぞぉぉっ!」と客を煽るタイプのバンドとはかけ離れており、脱力感満載で笑わせる。

しかし、ここまでの展開で温まりきった会場は、笑いながらもコウセイの「煽りごっこ」に大声で応えた。

 

そしてそのまま、怒涛のダンスチューンが続いていく。

 

さてネコ語は話せなかったが、伊東のギターは声よりも饒舌に歌う。ズラリと並んだエフェクターと、噴水のように噴き上がる長髪が視覚的にも鮮烈で、見ていて飽きない。

"はんぶんゾンビ"のゴリゴリとした歪みっぷりなど、カッコよさとダサさの絶妙なバランスがクセになる。

 

ところでこの"はんぶんゾンビ"、一度完全にブレイクした後にコウセイが「ゾンビが…ゾンビが…」とささやくパートの引っ張り方と(芝居じみていてフロアから笑いが起きる)、「ゾンビが来る!!」と叫んでからのラストの展開で客も「ゾンビ」コールで大盛り上がりできる。

 

先の"エネミー"もそうなのだけれど、今回のアルバムの曲たちは「遊び」というか「進化の余地」を残した作りになっているものが多いと思う。

CDで聴くのとライブで聴くのでは大違い、という楽しみあればこそ、ライブに行く楽しみが増えていく。どんどん進化していってほしい。

 

 

ラストの"アットホームダンサー"までノンストップで駆け抜けた時点で1時間近く経っていた。対バンライブ以上ワンマン未満くらいのボリュームのインストアイベント、という「何だかよくわからないもの」になったこの日のライブは、当然のようにアンコールへ。

冷めない熱量をさらに加熱するようにバンドのメガネコンビ、ビッツと光広がメガネを外して叫ぶと、そこから"メガネがない"で客も合いの手を大声で入れる。

 

 

最後はコウセイが「皆様、お手を拝借したいんですけどー」と語りかける。

「ナーバス・パーティーの発売を祝いましてぇ、よおーぉっ!」

のかけ声を合図に、フロア全体の江戸締めからの"ぬきうちはなび"。

「物販以外ノーギャラ」と言ってはいたが、いっさい手を抜かず、しかし肩の力はぬきながら、最後まで本物の「ガチライブ」を見せてくれた。

 

本気のステージを魅せたHINTOと、本気のステージを用意したタワレコに、乾杯。

 

SET LIST
01. アイノアト
02. マジックタイム
03. トキメキドライ
04. テーブル
05. エネミー
06. シーズナル
07. かなしみアップデイト
08. にげる
09. はんぶんゾンビ
10. アットホームダンサー
en1. メガネがない
en2. ぬきうちはなび

*1:その時のバンアパの語りで、「札幌ではエスカレーターの下でライブをして周りの目が凄かった」と言っていたのをよく覚えている。

*2:伊東は大の猫好きで、彼のTwitterでは頻繁に近所の野良猫写真がアップされる。