【ポケモン剣盾英語プレイ記②】「兄として」のダンデが見える英語版
この記事は「ポケットモンスター ソード・シールド」を日本語で1度クリアしたプレイヤー(外国に行ったことのない日本人)が、2周目のストーリーを英語で追ってみたプレイをスクリーンショットで振り返った記録です。
・日本語版とのセリフの比較に驚くのが中心です
・英語や文化の学問的な考察はありません
・ストーリーのネタバレを含みます
前回はこちら
母は優しいだけではなかった
地元に凱旋したスター・ダンデ(英語名Leon)からはじめてのポケモンを受け取った主人公と友人のホップ。
主人公はサルノリ(Grookey)を、ホップはメッソン(Sobble)をパートナーとして選びました。1匹だけ残ったヒバニー(Scorbunny)はダンデさんに貰われていくことになったようです。
これでポケモントレーナーとしての第一歩を踏み出した二人に、ダンデさんもトレーナーとしての心構えを説こうとしますが……
【日本語版】
ほら みんな ごはんが できたわよ
ポケモンも いっしょに 食べな!
ダンデ・ホップのお母さんがバーベキューに呼びに来ました。まぁこのセリフは日英ほぼ同じなんですが、問題は日本語がこれだけだったのに対して、英語版はこの前に一言入っていまして。
うわっ、辛辣。
確かにタイミングとしてはこれからダンデさんのありがたいご高説が始まりそうだったところにママたちが割ってきた感じですけど……
ガラルのスター、皆の憧れのチャンピオンの話を「ナンセンス」と一蹴できる唯一の存在。英語版ダンデ母最強か?
いや、いっぽうでこれ、無敵のチャンピオン・ダンデも「いいかげんにしなさい!」と母に叱られる子供のひとりだったと考えると何だか登場して間もないダンデさんに一気に親近感わいてきませんか。日本語版で隠されていた彼の一面を知ることが出来たような気がします。
どうでも良いんですがこのシーン、リザードンやサルノリたちもいっしょに母親の方を向いてるのが地味に好きで、それも「ご飯ができたよ~」だけならほほえましいものを、セリフがこうなってると一緒に説教されてるみたいなリザードンの真顔がシュールに見えてきますね……。
ホップは何が不満だったのか
さて、次の日。相棒となったポケモンとともに夜を過ごした二人を見たダンデさんです。
【日本語版】
大事な パートナーへの 愛と 理解は 深まったよな!
何か日本語版ダンデさんはあまりにもストレートに「愛と理解」とか言ってたので逆にすんなり流してたんですが、よく考えたらいきなり「愛が深まる」とか言うのはやばい奴以外の何物でもないですね。
英語版はそのあたりがわざと冗談っぽい言い回しになっているような気がします。あれ、ホップだけじゃなくてダンデも知能が高く見える……?
ダンデさん、昨日ママたちに途中でカットされたスピーチを今ここで存分に振るいます。
「いつかは無敵のチャンピオンであるオレのライバルとなれ!」
と2人に向かって言いますが、おや、ホップが何やら不満そうです。
【日本語版】
なんだよ!
アニキと 戦うのは オレだぞ!
日本語版では「2人とも」であることに対して不満だったようですが、英語版はどうやら「ダンデが主人公の方を見て言っていた(ように感じた)」から、とやや理由が異なります。
改めて考えると、ホップが突然「なんだよ!」と文句を言った理由として「2人に言ったこと」というのはちょっと違和感がありますね(日本語版を初見でプレイしていた時には別に思わなかったので、それは日本語スタッフ様のテキスト作りの巧みさかもしれません)。
ホップは勝負が好きな性格だと駅でダンデが言っていましたが、それにしても友達が「いっしょに」ダンデに挑戦すること自体は彼にとっても何も異論はないはず。そもそも誘ったのがホップだし。
日本語では言われていない「ダンデの視線」という情報が英語版に入ることで、これは「2人いっしょ」ではなく「主人公」の方がダンデに期待されているのではないか、という焦りのようなものが見えてきます。ホップが実際に焦り出すのは中盤以降、新たなライバルに負け出してからですが、あの挫折がしばらく尾を引くほど響くのは、彼のプライドの高さの裏返しなのかもしれません。
兄が見抜く弟の未熟さ
上で「ホップが勝負好きだとダンデが駅で言っていた」と書きました。
ちょっと待ってください。その場面に一旦戻りましょう。
ダンデを出迎えたホップが「家まで競争だぞ!」と言って一足先に駆け出したのを見ながらダンデは言います。
【日本語版】
ホップの やつ…… 相変わらず 勝負好き だぜ
いい 競争相手が いれば アイツも もっと 強くなるのにな
なんということでしょう。ホップは「勝負が好き」なのではありませんでした。彼が好きなのは「1番になること」です。
そうだよな……最初に主人公の家からホップの家に「競争」した時も「絶対オレが先に着くぜ(でかくて古いカバンの奴には負けねぇ)」と言って先に駆け出したし、この時も
と言って先に駆け出してるもんな……。よく考えたら卑怯すぎる。まともに競う気ないだろお前。
いっぽう、日本語版ではどちらの場面でも「自分が勝つ」という発言がカットされています。だから日本語版だけ見ていると単純に「競う」ことが好きだという印象で済みます(でもフライングはしてるから、そのせいで逆にもっとおかしい奴に見えなくもない)。これが意図的かはわかりませんが、そのせいで日英それぞれのプレイヤーによってホップの性格像が全然違うものになっているのは確かだと思います。
勝負好きであることには文句をつける筋はありません。しかし、「何でも1番でありたい」という価値観には、明らかにダンデも何か言いたげです。
Something truly special。「本当に特別」なトレーナーには、ただ勝つだけではなれない、ということをチャンピオンは分かっているのでしょう。今のホップは、兄の目にはただ表面上の強さに憧れるだけの薄っぺらな存在にしか見えていないのかもしれません。
ダンデの観察眼は、0.1ミリ単位の身長を見抜くだけではなかったようです。
さて、話を戻します。
ということでホップに初めてのライバル認定をされた主人公。
【日本語版】
いいか ポケモントレーナーは ポケモンを 戦わせ 育てるんだ
ここ、日本語と言っていることが真逆ですね。
日本語版では「もう俺たちもポケモントレーナーなんだから、さっそく戦わせようぜ!」と素直に意欲を見せる感じなのに対して、
英語版では「ポケモンをもらっただけで満足なんて甘い甘い、戦わせないと真のトレーナーじゃねーぞ!」というところでしょうか。
ウールーを持っているとはいえ、まだバトルをしたことがないのに「真のトレーナー」の資質について語るホップ、ここまでの流れを見ると自信に実力の伴わない、悪い意味の「子供」っぽいキャラとして見えてきました。
その発言を聞いたダンデ、日本語版ではまたしても「ふたり」に対して言いますが……
【日本語版】
オマエたちが ポケモントレーナーか どうか オレが 見届けよう
まずホップを試すような、釘を刺すような言い方をします。この人、絶対分かってるよ……。
ラッキーは実力に入らないらしい
というわけで、初めてのポケモン勝負です。その前にダンデさんからのありがたいお言葉を。
【日本語版】
パートナーの ポケモンを 信じろ! 心から 大事に するんだ!
それでこそ ポケモンの 強さを 示す 技を 選べるし
ふむふむ。だいたい同じ事ですね。
【日本語版】
なにより 勝負も 楽しめるぜ!
チャンピオンタイム(概念)。
ここはイングリッシュ・ガラル地方。だれでも心の中にチャンピオンタイムはあるらしい。私もチャンピオンタイムしたい。
ダンデさん!!?? ちょっと真面目なトーンで感想書いてる時に落とさないでくれません!!!???
ホップとの対決がついに始まりました。さんざんカバンの古さを煽られた借りをここで返さなければなりません。
くらえ、ビッグ・オールド・バッグ!!(急所)
【日本語版】
急所!? すごいな オマエ
ラッキーも 実力の うちだぞ!
日本のインターネットでは「何をしても褒めてくれるホップ」がミームとなって定着しています。ホップといえば何でも肯定していくキャラと言う印象がありました。
ポケモン剣盾・とにかく褒めてくれるホップくんの褒め言葉全集! - ゲームのきおく。
それに対して英語版ホップです。全然相手を認めない!
やっぱプライド高いなこいつ!! こっちは急所が出るまで14ターン粘ったのに!!!
こうやってみると、日本語の「すごい」とか「実力」とか言ってくれるのはやはり意識してホップを「良い奴」に描いているような気がしてきましたね……。
ちなみに「ここと博士の家の2回はホップに負けても物語が進む」という話を聞いていたので、負けたらどうなるんだろうなぁと思ってひたすら「なきごえ」連発させて倒されてみました。
【日本語版】
アニキが ポケモンを ゆずっても 最強は オレ なんだぞ!
めちゃくちゃ上から目線で言われましたね。日英でそこまで変わりはしないものの、一言ついた「Sorry」が逆に煽ってるみたいでムカついてきた。
こっちはお前のメッソンと不毛な「なきごえ」合戦が続いて倒されるまでに42ターンかかったんだが!?
厳しさと優しさとポケモンことわざ
勝負がどんな結果になっても、主人公に何かを見出したダンデは、主人公の方を向き「お願い」を言いました。
【日本語版】
ホップの ライバルにも なれ!
ふたりで 強くなるんだ!!
ただのライバルではありません。”real”なライバルです。さっきも気にかけていたホップの行く末を、主人公なら託せると見極めたのでしょう。
日本語でプレイしていた時は難しく考えず、ひたすらポジティブに新人トレーナーを応援する人だなと思っていました。もともと「ガラルのみんなで強くなる」という夢をもつチャンピオンなので、それも間違いではないのでしょう。
ただ、ダンデはチャンピオンであると同時にホップの兄でもあります。日本語版に比べてテキスト量の増えた英語版では、この「兄」として「弟」を思う気持ちが、セリフの中で生き生きと浮かび上がってくるように思えるのです。
”would you?”という丁寧な表現は、まさに無敵のチャンピオンが初対面の新人に礼を尽くして弟のことを託すエモすぎる2語だと言わざるを得ません。
さて、初勝負でモチベーションの高まったホップはトレーナーの祭典「ジムチャレンジ」に挑ませてくれるよう、ダンデに頼みます。
【日本語版】
なるほど……!
ガラル地方 最大の イベント ジムチャレンジに 参加したいのか
日英の温度差がすごい。
明らかに「まだ早い」と言いたげな英語版です。
【日本語版】
わかった! ふたりとも もっと ポケモンに くわしくなれ!
日本語版も結局ここでは「チャンピオンとして推薦する」とは言わないんですが、でも「わかった!」とは言っちゃうんですよね。だから後で推薦を渋るシーンで「さっき『わかった』っていったじゃん!」と思ってしまう。
日本語版ダンデさん、わかってないことにもとりあえず「わかった」って言ってしまうの、自分を見てるみたいで辛くなるからやめてくれません?
ところで、このセリフの1つ前に、また英語版では日本語版にまったく存在しないメッセージが1つ挟まっていました。
最初見た時に何のことかさっぱり分からなかったんですが、
もともと”Put the cart before the horse”がことわざで「物事の順序が逆である」という意味だったのですね。シラナカッタ。
そこに”horse”の代わりに馬ポケモンのギャロップが登場。
前回のカビゴン以上にがっつりと「ポケモンことわざ」となっています。ちょうどこの記事金曜ロードショーで『名探偵ピカチュウ』を見ながら書いていたので、「ポケモンがいる世界で生まれてきた慣用表現」について考えるだけで嬉しくなりますね……。
あと、これは不勉強で知らないんですが、ここでダンデが”Little Brother”とわざわざ呼んでいるのは、改まった言い方ということで良いのでしょうかね? 兄弟を”Brother”,”Sister”と呼ぶ言い方、知っているのは映画『マイティ・ソー:バトルロイヤル』で最後にロキと和解したソーが、地球に向かうことを心配するロキに「きっと大丈夫だ、弟よ(Perhaps you're not so bad after all, Brother.)」と声をかけていたことくらいなので、よほど改まった言い方で念を押したり向き直ったりするときぐらいしか使わない(だからこそソーの“Brother”にもすごく感情がこもって見えたような)のかなぁと勝手に思っています。誰か知っている方は教えてくれると嬉しいです。
まぁこの『ソード・シールド』ではもっと後に、ほとんどの会話でお互い”Brother”呼びを連発しまくるキャラが出てくるのですが、それはそいつらの全てが仰々しいゆえなのかなと思います(誰のことなのか、プレイ済みの方は多分わかるのでは)。
そんなこんなでポケモンにくわしくなるため、「ポケモン図鑑」を手に入れるよう、ダンデに言われました。
【日本語版】
よし ○○
と、日本語よりテンション上がった感のあるホップへ、
【日本語版】
今の ノリのよさ 最高だ! 博士には オレから 伝えておくよ
良かった。ダンデさん、ここでやっとホップを(個人として)褒めてくれました。
ここを単純に「ノリ」とせずに”enthusiasm”(熱意)という言葉を当ててくれたところ、ダンデがホップの何が足りなくて、同時に何が認められるかが分かってる感じがして良いのですよ。やはりチャンピオンとして、兄として、厳しくも優しい人間です。
改めて英語版を見返すとこんな感じでいろんな側面が見えたり想像や妄想が膨らんだりします。次回もどんどんやっていきましょう。
まだここまでプレイ時間で30分くらいなんですけど。
最後に、やる気のみなぎったホップから一言。
【日本語版】
この オレ ホップは チャンピオンに なる 男!
図鑑を 完成させるのも 伝説の 1ページだぞ!
ポケモン図鑑を軽んじるな。キクコかお前は!
次回、アメリカ人も困惑したというガラル(イギリス)イングリッシュが火を噴く。