曲書緩想文

もともと音楽の話ばっかりしてました。今はよくわかりません。

還暦の巨人、三度の襲来【DESCENDENTS "MILO GOES TO JAPAN TOUR 2023" 2023/10/07】

2023年10月7日、DESCENDENTSの来日ツアー「MILO GOES TO JAPAN TOUR 2023」4日目。



渋谷Spotify O-Eastは老いも若きもパンクロックファンの男女でごった返していた。
いや、どちらかというと老いの姿の方が多い気がする。何せバンドは今年で結成45周年。そりゃファンの高齢化も進むのである。

 

開演前、階段の上まで続く長蛇の列を作っていた物販は、Tシャツとパーカーのみという潔いラインナップ。
定番の「Miloジャケット」デザイン数点に加えて、今回のジャパンツアー書き下ろしデザインもある。DESCENDENTSの過去のマーチャンダイズを見ていると、割とツアーごとに「ご当地グッズ」を出しているみたいだ。筋金入りのマニアはやっぱり追いかけて「各国のMilo」を集めていたりするんだろうか。


個人的には、この日もMiloが提げていたペットボトルホルダーも売ってほしかった。

https://descendents.store/category/834/mens-apparel

 

オープニングアクトPizza of DeathCountry Yard。ベースボーカルのKeisakuが「ほとんど僕らのこと知らない人ばかりだと思うんですけど」と言いながらも、DESCENDENTSに憧れ、15年がかりでここまで来たことの感慨や、会場の全員とパンクロックの素晴らしさを味わえる感謝を話す。

彼らを知らなくても、熱い思いは言葉と音楽に載せて伝わり、演奏終了後は優しく熱い高揚感がせり上がる。

 

転換中、場内で流れるUSパンクナンバーの数々の中にDESCENDENTSの曲も混じる。早くもフロアの一部からは歓声が上がっていた。

Country Yardの出演時からすでに背後に鎮座していたBillのドラムセットに改めて視線が向く。極端に水平にセットされたシンバル。腕を高く上げることなく叩けるようになっているのが特徴的だ。最初はこれを「省エネ用か?」と思ったりもしたが…。

 

さて、入念なサウンドチェックも済んで、いよいよ4人がステージに登場する。
BillとStephenは2013年あたりにBlack Flagの来日で生で見たことがあるものの、僕の中では彼らの姿の基本イメージは「Live Plus One」のジャケットと、映画「Filmage」での姿だ。
言うても後者は10年前。前者に到っては四半世紀前である。嘘でしょ。

Milo。ずいぶん恰幅がよくなっているけれど、ドリンクを肌身離さず提げて動く準備は万全だ。
Karl。歳相応に白髪になって、「イケてるジジィ」を地で行く姿。でもTシャツは派手で若々しい(英語版Wikipediaの本人のページに写ってる写真で着ているシャツ)。
Bill。脳腫瘍や心臓の手術など、大病を経験して痩せたような気がする。それでもステージに出て笑顔が見えるだけで、胸に来るものがある。
Stephen。四半世紀前と何も変わっていないスキンヘッド。不老不死か?

 

Miloが「Welcome to Spotify O-East」と言い、Country Yardへの謝辞を述べると、横の2人が学期を構える。歪んだアンプの音が響く中、「Everything Sux」とMiloが曲名を告げた瞬間、フロアは爆発し、激流と化した。
東京のファンはこの時を待っていた、と言わんばかりにモッシュとダイブがあちこちで沸き起こり、声と拳が上がる。
あっという間に曲が終わると、間髪入れずに即「Hope」が始まる(曲名は最初のEverything Sux以外はほとんど言われなかったけど)。3曲目の「Silly Girl」の時には僕もダイブしていた。

 

フロアで踊り狂いながらもBillの様子を見る。上でも書いたが数度の大病に加えて、もう還暦である。体力は往年に比べてかなり落ちているはず——
——という見立ては大外れだった。


肘より上がほとんど動かない叩き方は、揺るぎない安定感を生む。持ち前の大きな体躯から、大きな動きをせずともスティックを落とすだけで轟音を鳴らすドラミングは、さながら固定砲台のようだった。
そして、ハイハットやライドシンバルを叩かなくてもビートをキープできる時には、隙あらば空いている手を上げてメンバーやフロアの聴衆に向ける。ただ叩いているだけの方がほど楽だろうに。
そうか、Billの動きは決して「省エネ」などではなく、120%で「ショー」をするためのものだったんじゃないか。
そんなことを思った。

 

それにしてもステージ上の4人はとにかく省エネと無縁である。MCなんぞ一切無し。曲が終わるか終わらないかのうちにもう次の曲のイントロを準備している状態だ。
これが本当にメンバーの平均年齢59.5歳*1のバンドの動きだろうか。


本人たちは約50分ほとんどノンストップ(一瞬の隙を突いて水分補給はしていた)だが、疲れの色は見えない。むしろフロアで踊る僕たちオーディエンスの体調を気遣うかのように、ちょうどよいタイミングで「Clean Sheets」や「Without Love」、「When I Get Old」のような聴かせる歌モノを挟み込んでいく。
後先考えずにモッシュとダイブをしていたフロアの最前線が、この時ばかりはリズムに癒やされるようにゆらゆらと揺れていた。そりゃまあ45年バンドDESCENDENTSのファンなので、客も残念ながら多くは中年なのだ。僕も含め。
「When I Get Old」で回復した心はキッズの中年パンクファンが、続く「Coolidge」で再び感情のままに踊り狂い、「Bikeage」でダイブする。我ながらバンドの手のひらの上で躍らされているなあと思う。

 

新旧織り交ぜたセットリストも終盤にふさわしい「Thank You」で締め……と思いきや、Stephenが即座に「I want to be stereotyped. I want to be classified.」と言い出して、まるで仕切り直しのように「Suburban Home」をかき鳴らす。オーディエンスの方がわりと限界に近いが、嬉しい悲鳴が上がった。
次の「Smile」で今度こそ(いったん)締める。ステージ脇にはけていくメンバーの中で、最後まで残っていたBillも満面の笑顔なのが嬉しかった。

 

当然すぐに沸き起こるアンコール。その間は2分程度だっただろうか。ほどなくしてメンバーは再びステージに戻ってきた。
アンコールが始まる前、また東京に来ることができて嬉しいと話すMiloあと本編中ずっとズボンのチャックが開いてたらしい。「見てなかっただろ?」と笑う。

そしてBillに向かって「お前これほしかったんだよな?」と、何やら白いものを渡す。


何やら白くて……ちいさくて……かわいいもの……

まさかのMilo/ちいかわコラボ爆誕である。


Shary*2氏ーーッ! 公式にコラボしてくれーーーーッ!!!
Billは一度受け取るも、ニコニコしながら「?」という顔でMiloにちいかわぬいぐるみを返却。

アンコールは最新アルバムの「Sailor’s Choice」からスタート。なお、ちいかわは歌っている最中のMiloにブン投げられた。


「第2部」が始まったのではないかと思ったが、さすがにそこは短期決戦だった。あっという間に3曲が終わると、最後の最後は「Get the Time」の合唱でフィニッシュ。

時間にすればアンコール含めても1時間程度だったが、昔と変わらない濃度で、全速力で駆け抜けるためには、十分すぎるほどの時間だった。

 

[http://入薗モミィ on X: "さすがにDescendents観れるのもそろそろ人生最後になりそう" / X:embed:cite]

来日公演が決まった時はこんなことを言っていたが、DESCENDENTSはまだまだ現役。50周年も来日して、存分に暴れさせてほしい。
そのためには我々キッズ(精神的)もちゃんと体力を維持しないとならないと思うのだった。

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(この後インフルで数日ぶっ倒れる。諸々の感染症にも気をつけましょう……)

 

【SET LIST】

1. Everything Sux

2. Hope

3. Silly Girl

4. I Like Food

5. On Paper

6. I Wanna Be A Bear

7. Clean Sheets

8. Nightage

9. Victim Of Me

10. Nothing With You

11. I'm Not A Punk

12. Rotting Out

13. Pop

14. Van

15. 'merican

16. Weinerschnitzel

17. Without Love

18. Coffee Mug

19. Myage

20. When I Get Old

21. Coolidge

22. I Don't Want To Grow Up

23. I'm The One

24. Bikeage

25. Thank You

26. Suburan Home

27.  Smile

en.1. Sailor's Choice
en.2. Good Good Things
en.3. Grudge
en.4. Get The Time

*1:KarlとStephenは59歳、BillとMiloは60歳

*2:キャラクターとしてのMiloのデザイン、およびDESCENDENTSのアルバムジャケットのほとんどを手がけるイラストレータ