曲書緩想文

もともと音楽の話ばっかりしてました。今はよくわかりません。

酒とギターと男と女(toddle@下北沢THREE 2013,12/15)

toddleの2年ぶりのワンマンライブへ向かう。

WEBサイトの告知では「開場18:30 開演19:00」となっていた。

 

仕事が上がって亀戸から電車に乗り、下北沢に着いたのが18時50分。下北沢THREEはSHELTERやERAに比べるとやや遠く、駅から5分以上歩く*1

着く前に始まってしまうかもしれないと少し焦りながら会場前に急ぐと、開演予定時刻の3分前にして入り口前に長蛇の列ができていた。

 

ほんの少しの当日券はあったようだが、(本人たちも予想していない)SOLD OUTである。

 

 

予定の30分遅れで19時30分、大量のスモークとともに江崎典利が1人でステージに登場。

toddleの皆さんは、まだNHKホールから移動中のようです」

と詰めかけた観客を笑わせながら前説。一度引っ込んでからSEが流れると、今度は4人で現れる。

 

余談だが、下北沢THREEはステージと楽屋の間を、フロアを通って行かなければならない構造になっているため、図らずもメンバーはファンたちの後ろから現れ、間を歩いてステージに上ることになった。

このアットホームともいえるほどの距離感の近さが、彼女らがTHREEを好んで拠点にする所以なのかもしれない。

 

「こんばんわ~」

どこか気の抜けたような田渕ひさ子のあいさつ。江崎に促され、テンションをほんの少し(ほんとに少し)上げて「こんばんみ~!(ビビる大木風)」と言い直すなど、初っぱなから緩さ全開だ。

 

と、思ったところに、突然カウントからの轟音。

 

"a sight"で幕を開けると、一気に引き込まれた。

マイク無しでも余裕で声が聞こえるほどの近さにあるステージとフロアが、押しつぶされそうなプレッシャーで包まれる(物理的にではなく)。

 

4曲を立て続けに演奏してからMC。

田渕「こんなに時間押しちゃってすみません。開場から30分あればいいかな~なんて思ってたんですけど、こんなに人がたくさん来てくれたことなかったので。あの、こんなに日本に人がいたのかーって*2。」

 

水を飲む田渕と、その横で水のようにチューハイを飲む江崎というシュールな構図で進むMC。MCというより飲み屋で喋っているような感じがする。

「このグダグダぶりがtoddleらしい(小林談)」と自他ともに認める緩やかな時間だ。

 

MC後はアルバム未収録の(たぶん)新曲から。爽やかなリズムとアウトロでの田渕のギターソロが織りなす美しい曲だった。セットリストの紙には"エアリアル"と書かれている。

(追記:これは新曲ではなく、2ndアルバムリリース時の、ディスクユニオン特典CDに入っていた"Aerial things"という曲だったというご指摘を受けました。この曲はその後、7.e.p.の東日本大震災復興チャリティコンピ"Resume"に収録されましたが、iTunesストアで3か月限定配信だったため、現在はもう手に入らないようです。唯一、ニコニコ動画で「toddle 未発表曲」という題の動画が非公式に上がっていますが。)

アンコールでももうひとつ新曲(といっても2年くらい前から演っていた気がするが)があり、ニューアルバムへの期待が高まる。まだアルバムを作りそうな気配もないけれど。

 

この日は(も?)とにかく江崎が酒を飲みまくる。

最初のMCでチューハイを1本。

2度目のMCでヘネシーをグラス満タンで一杯(最初の一杯は内野に「ちょっとひと口」と言われてそのまま飲み干されてしまったが)。

3度目で田渕と小林の誕生日を祝いながら*3コリンズグラスに入った酒を4杯連続一気(「四人分あるのに全部ひとりで飲むんかい!」というツッコミ入り)。

その後も飲み続け、1回のライブ中に2リットルは飲んだのではないか。少し心配になるほどの酒量だが、江崎のテンションは上がり続けるも演奏は問題なし。

toddleといえば「田渕ひさ子のバンド」としてばかり注目されがちだが、ライブにおいて江崎の存在感は計り知れない。

彼がいることで、toddleはファンに愛される距離感を作り出すことができ、他メンバーもリラックスして演奏できているような気がする。

江崎だけでなく、ワンマンについての感慨や先の告知を語るのは小林愛だし、温和な語り口で最後に笑いを持っていくのは内野正登だったりする。

メンバー内で、リーダーが最も口下手でシャイという珍しいバンドだと思う*4

 

とはいえ、やはり僕も含めてファンが最も見たがるのは田渕ひさ子のギタープレイだ。

超人的なスーパープレイがある訳でも、前代未聞の変態フレーズがある訳でもない。

それなのに、何だろう。この圧倒的な迫力は。

 

小さな身体で、傷だらけのジャズマスターに覆いかぶさるように全身を使って弾く。

派手ではないが自然にステージを動き回り、あたかもギターと一体になっているかのごとく、彼女の身体から優しくも破壊的な轟音を発する。

それは、楽器の潜在的な能力を限界まで引き出した者だけが出せる音なのかもしれない。大の男がどれだけ力任せに弾いても出せない力が、彼女のプレイにある。

 

たっぷり80分ほど、キレキレの演奏とグダグダのMCを繰り返して本編も最終局面。

「また、来て…ください…ね〜」と田渕がどこまでも恥ずかしそうに話す。

と思いきや、最後の"Colonnade"では再び客の視線をものともせず、別人のようにかっこいいプレイを見せる。

 

 

このライブの2日前に告知されたが、この後あと3本で、内野がtoddleから抜けることになっていた。

皆どうなるのか、という不安を持ってライブを見に来たが、アンコールのときにようやくその話が出てくる。

 

田渕「2/2のライブをもって、ウッチーがtoddleの正式メンバーを卒業します」

江崎「moolsしかやりたくねぇよって

内野「そんなこと言ってないでしょ!」

(会場笑)

田渕「その後は、ウッチーはサポメンになります

(会場から上がる「えっ?」という声)

田渕「えぇと、これからもウッチーとは、ずっと仲良しです」

 

どうやら正式メンバー(曲の制作などに関わるような)ではなくなるものの、大して今と変わらなさそうだ。

拍子抜けというか、ひとまず安心する。

 

 

内野の脱退(?)はさておき、今年が終わる。

2013年という、田渕にとって最も辛かった1年が終わる。

 

吉村秀樹

toddleのプロデューサーであり、

田渕のホームbloodthirsty butchersのリーダーであり、

そして彼女の夫でもある彼の、早すぎる死から、まだ半年しか経っていない。

 

田渕は5月30日の訃報から1ヶ月ほどは完全に休んでいたものの、その後はさまざまなバンドで再び精力的に活動を再開。今ではbloodthirsty butchersでの活動がなくなったこと以外は、何も変わらないように見える。

 

あれから、何があったのか。

今、butchersと吉村に何を思うか。

彼女は、まだ何も語らない。

 

そんなに簡単に受け止め切れる訳がないし、まして整理などつくはずもない。当然だと思う。

ただ彼女は、トレードマークのジャズマスターに全身を預けて音を生み出す。人生の大半の苦楽を共にしてきた愛機に、「今、自分にできること」を問いかけるように。

彼女の気持ちを忖度することはできないが、変わらずに弾き続けるその姿に、ファンたちは同情ではなく歓声で応える。

今はそれで良いのかもしれない。

 

ダブルアンコールは1曲だけ。明るいコードのストレートなナンバー、"eraser"がまだ残っていた*5

 

"進みたいのに邪魔する 悲しいだけの記憶 ひとつ残らず消えろよ

空っぽになれ 今日へ飛び込め"

 

消えるはずも、捨てられるはずもない「悲しい記憶」を抱えて、僕らの愛するギターヒロインはこれからどこへ行くのか。

田渕ひさ子と、toddleの2014年が気になって仕方ない。

 

SET LIST

1. a sight

2. Wind Chimes

3. Sack Dress

4. hesitate to see

5. Aerial things

6. arpeggio

7. chase it

8. cast away

9. Gulp It Down

10. In a Balloon

11. Dawn praise the World

12. Ode to Joy

13. shimmer

14. thorn

15. melancholic blvd.

16. Colonnade

en1. ? (新曲)

en2. I dedicate D chord

en3. minimal

w en. eraser

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ライブ終了後ステージにあったセットリスト

*1:おまけに酒屋の駐車場の奥にある階段を下り、さらに二股に別れた通路の細い方に行かないと入れない、という隠し通路のような目立たなさで、初めて行った時は本当に迷った。

*2:くり返すが、THREEは小さい箱だ。キャパシティは80人と云われている(実際はもっといた気がするが)。

*3:二人とも12月生まれ。

*4:演奏時とのギャップで、そこが田渕ひさ子の愛されポイントな気もするけれど。

*5:江崎は「何演ろうか?もう曲がないから最初のでいいよね!」と言っていたが。