曲書緩想文

もともと音楽の話ばっかりしてました。今はよくわかりません。

ドラム・マエストロは裏通りで年を納める(mouse on the keys@吉祥寺WARP 2013, 12/30)

幕張メッセで行われているCOUNTDOWN JAPAN(以下CDJ)について先日、「年々順調に動員を増やし、冬フェス一人勝ち状態になっている」という記事を読んだ。
 
確かに、2010年前後あたりから、「日本のロックバンドの年越しといえばCDJ」というのがすっかり定番になっているような気がする。
ひと昔前の年末のテレビが「紅白」と「その他裏番組」で括られていたように、少なくともロックにおいて、年末に行われるCDJ以外のライブにはどこか「裏」感が漂う。
 
そんな年末の裏も裏、吉祥寺の小さなライブハウス「WARP」が15周年をひっそりと迎え、その薄汚れたヤニ臭い箱の生誕が、オールナイトでコアに祝われた。
 
 
21時から始まったイベントは22時にregaが熱く盛り上げいく。
そして23時57分。日付けが変わる3分前、フロアもステージも真っ暗闇に包まれた。
 
mouse on the keys(以下motk)のライブ開始の合図だ。
 
暗転する少し前にメンバーはステージに上がっているのだが、この吉祥寺WARP、楽屋から直にステージに行くことができない(というか楽屋が二階でステージが地下)構造のため、メンバーが客をかき分けてフロアに進んでいく。いつもはどことなくミステリアスな雰囲気を漂わせながら、いつの間にか現れていることが多い彼らと、何だかいろいろな意味で距離が近い。
 
そうは言っても、真っ暗なステージに、黒い服装の三人。端に構えたビジュアルエフェクトのMacが放つディスプレイの光だけが、不気味に存在感を持っている。
気軽に歓声を上げられるような空気ではなかった。
 
静寂。暗黒。
張り詰める空気の中で、1音のピアノが響く。
"ouroboros"が、CD音源よりもテンポを落とし、重々しく展開される。
ゆったりと、しかし徐々に激しさを増す音の波が、ショーの始まりを告げた。
 
1曲目が終わり、盛大な歓声が上がるとすぐに再びステージが暗転し、"completed nihilism"が森閑とした雰囲気を運ぶ。
motkのファンであれば、「この後"spectres de mouse"という暴風雨がくる」嵐の前の静けさが来たことを感じ取っていたはずだ。
はたして、嵐は来た。1,2曲目で溜めに溜めたエネルギーを全解放するような激しさに、深夜の会場が熱狂する。1音1音がはっきりとした質量をもって飛び交っていく。
 
爆発的な3曲目を終えるとやや場内が明るくなるも、MCはなし。すぐに次の"seiren"に移った*1
この日はサポートのホーン隊がおらず、終始三人での演奏となる。いつもならサックスやトランペットが入るこの曲を、いつも以上にテンションを上げてアドリブで進める。
小さな規模なら小さな規模なりに自由に展開する、演奏力の高さが実感できる。
 
 
 
motkのライブでは、普段はプロジェクターを用意し、ステージ後方に設置したスクリーンにさまざまな視覚効果を映し出す。
が、ここWARPは狭い。ここではそもそもスクリーンを置くスペースがないので、ライトの当て方を工夫するのみになっている。
暗闇の中で、一筋の光に照らされながら演奏する三人。
 
そこで見た。
───川崎昭の振るドラムスティックが光るのを。
暗闇に輝く軌跡を描くそれは、さながらサイリウム。いや、魔法のステッキか。
 
そしてキーボードの二人、清田と新留を見る。
音だけではなく、川崎の振るスティックと、大きな動きを確かに見ながら弾いていた。
 
motkのステージ配置はドラム・キーボード・キーボードがそれぞれコの字型に向かい合う。
つまり、三人がお互いの視線を常に確認できるようになっている。
それが、何を意味するか。
 
正確無比なフレーズの中で、時折見せる「無茶苦茶な」ドラミング。
セオリーを完全に無視して力いっぱい叩いたり、シンバルを打ったウデを高々と掲げたり、さらには立ち上がり、バスドラムの上に乗るほどになる。
 
これらは、ただ聴衆を沸かせるためのパフォーマンスではないのかもしれない。
全身を使って視覚的にリズムを作り出し、先ほど「魔法のステッキ」と形容した煌めくスティックが、指揮棒のように次の旋律を導く。
 
 
手が届きそうなほど間近で見ることで気付いた。
そう。このバンドにおいて、川崎の役割はただドラマーだっただけではない。
彼は、"指揮者"でもあったのだ。
 
 
変幻自在にドラムを叩く一方で、キーボード二人の演奏能力を限界まで引き出していく川崎。それに呼応して凄まじい演奏を見せる清田・新留。
"最後の晩餐"や"aom"でのドラムソロはやはり驚異的だが、それだけでないバンドの一体感が、この狭苦しい空間で広げられた。
 
 
mouse on the keysが、祭りの光の届かないひっそりとした裏通りで、最高の年納めを見せてくれた。
 
 
SET LIST
1. ouroboros
2. completed nihilism
3. spectres de mouse
4. seiren
5. plateau
6. the arctic fox
7. 最後の晩餐
8. toccatina
9. aom

*1:この日は途中に川崎が「ありがとう」と一言つぶやいただけで、最後までMCはなかった。