曲書緩想文

もともと音楽の話ばっかりしてました。今はよくわかりません。

月曜日の熱狂(toe@渋谷O-EAST 2013,12/02)

月曜日。平日。週の頭。

通常ならば仕事やら何やらで今ひとつ憂鬱な一日の代名詞だが*1、この月曜日はひと味違う。

toeとenvy、2つの超絶実力派バンドがこのO-EASTで対バンするのだ。

 

憂鬱などと言っている場合では、ない。

 

この日は彼らのステージ・宣材写真などを長年に渡って撮り続けてきたカメラマン、太田好治が企画したイベント「SKSD」。

toeとenvyの他には、DJ BAKU、映像ユニットTyping Monkeysが出演する。

彼が愛し、また彼を愛してきたアーティストが集まり、午後7時というやや遅めの時間から始まったガチンコナイトだ。

 

 

とはいったものの、月曜日のO-EASTはやはり空いている。

開演10分前にはまだステージ前も人がまばらで、会社帰りのスーツ姿の観客も多い。平日感が漂う空気の中、

「もしかして、今日はまったりしたイベントになるのか?」

なんてことも思った。

 

7時、場内が暗転し、轟音。

ステージの壁をスクリーンに、宇宙空間のような光が映し出される。

耳をつんざくノイズと、幾何学模様の光学アートのうねり。

だだっ広い宇宙の中に放り出されたような不安や恐怖、その中で一筋の光に包まれる安堵が交錯する。

Typing Monkeysが送る、この日のイントロダクションだ。

 

映像が終わるとほどなく、あらかじめセットしてあった機材に証明が当たり、envyのメンバーが現れる。

Typing Monkeysの流れをそのまま汲むかのように、幻想的なトレモロのイントロでステージは始まり、そこから一気に暴発する。

envyの音源は持っていないので詳しく書くことができないが、その熱さは分かる。

始めは大人しかった観客も、後半になるにしたがって熱を帯びてくる。叫び、拳を挙げ、最後にはダイブも起きていた。

この時点で、開演前の「まったりするか」という予想は打ち壊されていた。

 

toeの山嵜も、このenvyのライブを心待ちにしていたようで、

徐々に外に向けて拡散していくような熱量を放ち、envyは演りきった。

 

envyのステージが終わり、転換の間にステージにはカーテンがかかる。

と、同時にステージ横にある小さなDJブースが点灯し、DJ BAKUが出現。

ただの「転換の幕間」でくくってしまうのは乱暴だが、toeが準備できるまでの間、観客たちの目を繋ぎ止める。

およそ4、50分のDJプレイの中で、途中toeの"ショウシツ点よ笛"がリミックスされる。観客から上がる歓声。

最後はtoeの盟友mouse on the keysの"最後の晩餐"をサンプリング&ループし、フロアをクラブモードからロックモードに戻して退場する。

 

こうした半2ステージ制で行われるライブは、何だかテンポが良い。

 

BAKUがブースから去ると、ステージのカーテンが開き、toeのメンバーが登場。

アイコンタクトから、一斉に各々の楽器を掻き鳴らす。

3度ほど「ジャーーン」と鳴らしてから、柏倉のカウントで始まる"孤独の発明"でライブを開始する。

いつもならば、もっと各メンバーが手癖で好きなフレーズを鳴らしてからのスタートだが、この日はどこかいつもにはない気合いの入り方を感じた。

envyの放ったエネルギーに触発されたかのように、力のこもった漕ぎ出しだ。

 

カーテンが開いたときに、ステージをぱっと見て、驚いた。

O-EASTのステージは結構な広さなのだが、何と用意されたtoeのセットはステージの3分の1程度に固まっている。

こじんまりとしたライブハウスのステージと何も変わらない使用面積だ。

 

ライブが始まるとその配置の必然性に納得する。

toeのライブは、メンバー感のアイコンタクトが野生的なグルーブを生み出す。そのためには、常にお互いが目の届く、手の届く位置にいることが絶対の条件になる*2

それは場末の小さなライブハウスでも、フジロックのグリーンステージでも変わらない。

 

envyが広いステージを縦横無尽に動き回り、外側に熱量を放っていたのとは対照的に、toeは四人で囲んだその小さな円の内側に、どんどん熱量を溜め込んでいく。

まるでブラックホールのように観客の熱を吸い込み、重厚なエネルギーを演奏に込める。基本的にクリーントーンインストバンドが、ここまでロックファンの心をつかむのは、この「ライブでしか見えないエネルギー」を体感させてくれるからだろう。

 

本編後半、山嵜と美濃がアコースティックギターに持ち替えてもその熱さは止まらない。

"1/21"では始まりに美濃と柏倉が短いセッションをし、

"The Future Is Now"ではサポートキーボードの中村圭作も珍しくアドリブを見せた。

 

曲が終わる度に「もうちょっとだけ演ります」と山嵜がつぶやく(3回くらい「もうちょっとだけ」が続いたが)。

そのゆるい喋りはいつもどおりだが、演奏は鬼気迫るものがある。このステージをよほど楽しみにしていたみたいだ。

 

終盤、いよいよ山嵜の前にマイクが置かれると山嵜は下を向いたままボソリと話しだす。

「こんばんは、セクシーゾーンです。」

客席も他メンバーも思わず吹き出す。

 

この日のMCでは主に企画者の太田に関してと、20周年を迎えたenvyに関して。

「僕も19のころからずっとバンドやってますけど、そのときにenvyと、当時はブラインドジャスティスって名前だったんですけど出会いまして……これいいの?語ると長くなっちゃうよ?」

「envyのベースは中川くんって言うんだけど、当時アンチノックって新宿のライブハウスに行ったら階段のところにその中川くんが座っているの。で、僕より2つ年上だからすごい緊張して、でも勇気を出して『わー大好きですー』とか声を掛けたんですけど……もう何かすげえ感じ悪くて。」

「なんだこの人カンジわりぃ! と思ったら、後で聞くとその日アンチノックに行く前に、女にフラレたらしいのね。そんな初対面からもう気がつくと20年くらい経ってるかと思うと……」

 

下を向いたままぽつりぽつりと、そんな脱力系思い出話を紡ぐ。

そして、「こんな平日にたくさん集まっていただいてありがとうございます。僕らもね、何だかんだと皆さんがこうやって来てくださらないとバンドできませんから。もう皆さんがバンドの一部です。」

と、やや真面目なコメントで"グッドバイ"を歌い出す。

 

CDでも7分を超える、壮大な唯一のボーカル曲*3。ライブではさらに拡大する。

前半のゆったりとした海の底のような歌から、徐々に演奏が激しさを増し、歌が終わった後の後半約3分は、荒れ狂う波に変貌する。

さっきまであんなにだらしない喋りをしていた男から、こんなに激情的な音が発される。限界まで内側に溜め込んだ圧倒的なエネルギーを暴発させ、toeはステージを後にした。

 

 

当然のようにわき起こる満場のアンコールに応え、まずは山嵜だけがステージに。再びテレキャスターを構えて、ロックモードだ。

 

「さっき格好良く締めたんだけどなあ。」とマイクなしで笑う。

ふと、会場のどこかから「パパー」と幼な子の声がする。

会場から漏れる笑いに、山嵜も、

本当はチンコの話するつもりだったんだけど、子供がいるのでね。」

と配慮(言ってしまったら台無しだが)。

 

アンコールは"Long Tomorrow"と、"Path"。観客からも「ワン、ツー!」と声が上がる。

 

山嵜がギターを振り上げ、振り下ろし、体全体で演奏する。

美濃が雄叫びを上げながら、しかし手は繊細なアルペジオを奏でる。

柏倉が顔面をドラムの間近に寄せ、超絶技巧のフィルを叩き出す。

そして暴走する三人を、山根がどっしりと支えるように正確なベースラインを作る。

 

"Path"のクライマックスを繰り返し、最後の1音を打ち出すと、四人はそのまま楽器をステージに叩き落とすように放り出し、ステージを後にする。

 

月曜日という一日を、エネルギーのリレーで熱く狂わせたtoeと、他のアーティストたちに盛大な拍手が送られた。

 

 

ちなみに翌日、山嵜はツイッターでこの日の四人の距離の近さを証明するように、こんなことを発言していた。

 

 

暴走するインストバンド、toeの快進撃は続く。

 

SET LIST

1. 孤独の発明

2. エソテリック

3. all i understand is that i don't understand

4. Run For Word

5. past and language

6. 1/21

7. After Image

8. The Future Is Now

9. グッドバイ

en1. Long Tomorrow

en2. Path

 

*1:あくまでも一般論であり、仕事が楽しい人や仕事が休みの人はこの限りではない。僕も基本的に月曜は仕事休みだ。

*2:アイコンタクトを物凄く重視するので、必ずしも観客の方を向いてはいない。この日僕は最前列にいたが、基本的にいちばんよく見えたのは美濃の尻だった。

*3:余談だが、最近カラオケに行ったらこの曲があったことに驚いた。曲の3分の2はインストだというのに。