曲書緩想文

もともと音楽の話ばっかりしてました。今はよくわかりません。

誰も知らないトーキョーブルース(avengers in sci-fi @新宿LOFT 2014 06/12)

僕は現在、基本的に月〜土曜日、夜固定で働いている。陽が傾いてから職場に入り、遅くとも日付が替わる頃には帰れるのでさほどキツくはない。

難点といえば、連休が非常にレアなことと、平日・土曜のライブがほぼ絶望的に観られないことくらいだ。
そんなこんなで平日の魅力的なライブの告知を見ては「そんなものは存在しなかった」と自分の記憶を改竄することに注力し、悔しさを紛らわせるのが日常茶飯事である。
 
時に、6月。祝日が設けられておらず、ゴールデンウイークと海の日のちょうど中間点に当たるこの時期の木曜日に、僕は新宿LOFTへ向かっていた。
時刻は、午後11時30分。
avengers in sci-fi(以下アベンズ)の5thアルバム"Unknown Tokyo Blues"リリース直前パーティーが急遽企画されていた*1のだ。

 

Unknown Tokyo Blues

Unknown Tokyo Blues

 

 

 

ライブにでも行かない限り来ない、歌舞伎町界隈特有のきな臭さを嗅ぎながらLOFT前で整理券を受け取る。ちょうど配布し始めたスタッフのすぐ近くにいたので、整理番号は20番台。余裕で前列を確保できる。

スケジュールはなかなか押していたようで、予定時刻よりだいぶ遅れた日付変更後の0時30分、ようやく地下のバーラウンジへ通された。前から2列目に立つ。そこから15分くらいは続々と入り込んできた。

よくもまあこんな平日の深夜にこれだけの人が来たものだと思ったが、よく考えたらこの日のライブはチケットフリー。2ドリンク代(1000円)だけなので、そりゃ「バンドは見たし、金はナシ」の若人たちは来るに決まっている。自分もその一人だった。

しばらくはDJタイムCzecho No Republicの武井優心が曲をかけると、馴染みのファンと思われる観客たちは歓声や笑い声をあげながら踊る。アベンズのライブを見ることしか考えていなかった僕*2は、この間をどうするんだと思案しつつ、ライブの開始を待つ。

それまでアベンズのライブ自体フェス以外で見たことがなく、クラブやDJイベントといったものにまったく縁がないので、嫌いかどうか以前に「どう振る舞って良いかわからない」圧倒的アウェー感を感じていた。

 

待ち遠しさからそろそろ助けを求める気持ちに変わってきた午前1時30分、DJタイムが終わり、ようやく真打ち登場。僕もライブモードに切り替わってテンションが上がる。メンバーは万雷の歓声を受け、早速演奏を始める。新譜のプレリリースイベントではあるが、"Yang 2"、"Psycho Monday"といった前アルバムからのステージ開始だった。

"Wonderpower"まで3曲を一気に演奏するとMCをはさみ、「お待ちかねの新曲」に入る。

 

そういえば、この日のライブは「撮影OK」という触れ込みだった。翌日アベンズの公式ツィッターは、ファンがこの日にスマホから撮影した写真を載せたツィートをリツィートしていた。

 

昨年、ポール・マッカートニーの来日公演での「携帯による撮影解禁」がニュースになったが、自分で選んだショットが自分の端末にダイレクトに入ってくる喜び、友人に直接その風景をシェアできる臨場感などは、撮影されることで主催者、出演者ともに受けるデメリットを補って余りある集客効果をもたらす、かもしれない。

 

ただ、まあ、うーん。何というか、「撮っている客の周りにいる撮らない客」にとってはあまり気持ちの良いものではないような気もする。

試みとしては別に何も文句を言うことではないのだけれど、個人的な心情として「撮影OK」と言われていても演奏中のステージを撮るのは何となく気が引ける(ので撮っていない)。ライブはできるだけ自分の目で余さず見たい、レンズ越しに見ていたら、そのわずかな壁によって「自分がライブ空間にいる」感覚が拡散してしまうような気がするのだ。

 

カメラを向けられた木幡太郎は恥ずかしそうにしながら

「どうしたんすか、みんな。ねぇそんな観光客じゃないんだから。」

という。四方を見回すと、前列に詰めかけていた観客は皆笑いながらスマホのカメラをメンバーに向けていた。

そのフロアの光景と、一斉に鳴り響くシャッター音は(少なくとも僕にとっては)何ともいえず異様であった。先のDJタイムも写真撮影会のような雰囲気があり、それもあってアベンズが出てくるまではいったんテンションがだいぶ下がってしまったのを思い出す。

スマホを掲げる手がジャマでステージが見えない、というような実害がなくても*3やっぱりスマホ撮影する空間でない方が心地良いよなあ、などと思ってしまった。

 

 

しかし、ライブ自体はやはり興奮させてくれる。

"Pearl Pool"のイントロに入る前に、稲見から「Crap your hands!」のかけ声が。手拍子に乗るはLITEの"Pirates and Parakeetsのワンフレーズ。かつてLITEと共演した折に、この曲でゲスト参加していたこともあるというアベンズからの、盟友へのリスペクトあふれるオマージュだ。


LITE / Pirates and Parakeets (with Achico,avengers ...

 

オマージュといえば、この日記を書いているのはライブの1週間後なので、すでにリリースされている新譜"Unknown Tokyo Blues"を聴きながら感想なのだが、今回の新譜にはさまざまなロックの先人たちのオマージュが散りばめられている。

 

一聴しただけですぐにそれとわかるのは、

のフレーズがあることか。おそらく他にもたくさんあると思うが、まだいまいち分からぬ。

 

今までのアルバムよりも「サンプリング 」色が強いが、それをアベンズ流のロックに乗せることで、新しいステージに乗り出した。歌詞に関しても、宇宙とSFをモチーフにした基本スタイルに、「トーキョー」という都市をフィーチャーしていく。

あのときあの場所で聴いた歌を。もう憶えていないあの歌を。

それはかつて福岡県という外部から向井秀徳ZAZEN BOYS / 元NUMBER GIRL)が「冷凍都市」と呼んだ東京の顔とは、また違った一面をのぞかせる。この上なく未来的でありながら、不思議な懐かしさと郷愁にいざなう不思議なアルバムだ*4

 

 

話はライブに戻る。

「いやホントこんな急に企画したのに集まってもらってすみません……。何か人気あるバンドみたいですね。」

「DJのみんなもありがとう、1週間前くらいに声かけたのに。武井くんに至っては2日前とかだったよね。」

(武井「職がないんだよみんな」と返して会場笑)

MCもそこそこに、新譜と旧譜のナンバーを織り交ぜながら深夜の地下に爆音を響かせる。

周りのファンたちも、中盤からは写真を撮る姿もほぼなく、皆食い入るように演奏を見て、歓声を上げることに没入していた。

 

場内は非常に狭く、整理番号のおかげで運良く2列目を確保できたものの、踊るスペースは皆無。おまけに今回は「パーティー」という名目もあり、ライブステージではなく、バーステージの方を使っている。

何が問題かって、このLOFTバーステージ、フロアとの間に柵がない。

新宿LOFT フロア図)

f:id:mommiagation:20140623003524p:plain

 

バーラウンジのステージというのはもともと、「観客がステージ前に詰めかけて見る」というスタイルではなく、「カウンターやテーブルで飲食しながらステージの演奏を横目に眺める」というスタイルのために設計されている(はずだ)。

だから、ステージとフロアに段差も柵もない。セキュリティスタッフも立っていないため、誰かが倒れたらそのままステージに雪崩れ込むこと必至である。

しかもステージに立つのはアベンズ。要塞のごときエフェクターボードに前列の観客が倒れてきたら大惨事は免れない……なんてことを考えながら、必死こいて後ろからかかるエキサイトしたオーディエンスのグラヴィティを背中に受ける。

 

間近で見る代償を払って「ライブの汗」とは別種の汗をかきつつ、眼前の木幡の動きを見る。

歌を歌い、ギターを弾き、足はエフェクターのペダルを踏み分け、横を向いたらキーボードを弾き、もはや名前すらわからぬ見たこともないタッチパネル式の演奏機器を操作して音を出してはまた歌い、弾き、踏む。

スリーピースでありながら、とても3人とは思えない多層的な音をライブで奏でる姿は、驚くほど複雑なタスクを踊るようにこなす。いや実際に踊りながらこなす。

フェスの大舞台で遠くからしか見たことがなかったので、こんなにフットワーク軽やかに動き回るとは思わずにいた。これは視覚的にもすごいインパクトがある。

 

「いくつエフェクターを使っているんだろう」と思いながら木幡の足下を注視するも、30個くらいで数えるのを断念。一昔前の航空機のコックピットを彷彿とさせる。すごい。

 

 

ステージはアンコール込みでだいたい1時間15分くらい、音響はラフで正直聴き取りにくい感じではあったが、それはバーステージというロケーションのせいだろう(何せ「ライブ」というより「パーティー」の触れ込みだし)。

再びDJタイムに渦巻く地下を出て、僕は夜明け前の歌舞伎町を抜ける。湧き上がるのは次週発売の新譜と*5、そして来月にあるリリースツアーへの期待。

トーキョー・シティの夜に響いた知られざる音楽は、まだまだ鳴り続けるのだ。

 

(追記)

後日アップされた"Citizen Song"のMVは、この日のライブ映像を中心にイメージ映像を織り交ぜた作りになっていた。

なるほど、「iPhone出して握手しよう」の歌詞のとおり、この日、スマホを出して一斉にステージを撮影していた観客の姿そのものが、「21世紀の東京の現実」を象徴的に示すように映し出されている。それは、演奏するメンバーと同程度、いやそれ以上にこの日集まった観客自体が「作品」として機能しているのではないか。

おそらく、皮肉も込めて。


avengers in sci-fi / 「Citizen Song」MUSIC VIDEO ... 

 

 

SET LIST(赤字は新譜収録曲)

01. Yang 2

02. Psycho Monday

03. Wonderpower

04. Tokyo Techtonix

05. Citizen Song

06. Pearl Pool

07. Homosapiens Experience

08. Before The Stardust Fades

09. Superstar

10. Metropolis

11. Sonic Fireworks

12. The Planet Hope

en. Lovers On Mars

*1:Web上に企画が告知されたのがイベントの一週間前にあたる6月5日。ちなみに僕が知ったのはイベント2日前だった。

*2:当然、ぼっち参戦である。

*3:というか僕がほぼ最前にいたのでたぶん図体の大きめな僕の方がジャマだったかもしれない。いや申し訳ない。

*4:ただし、アベンズのメンバーは神奈川出身。

*5:これを書いている時点ではもう買って聴きまくっている。上で書いているけれど、期待以上の素晴らしい1枚だ。