曲書緩想文

もともと音楽の話ばっかりしてました。今はよくわかりません。

As You Like It (後編)(the band apart @横浜F.A.D 2015,03/15)

 (前編はこちら)

mommiagation.hatenablog.com

 

 

中盤のMCで、ファン(一部)待望の原劇場が開幕。

木暮「まーちゃんおかゆ好きだよね」

原「噛むのがめんどくさいんだよ。おかゆ飲めるじゃん。」

木暮「面倒くさいって、店選ぶとかじゃないんだ。」

原「行く店は決まってるから面倒じゃないよ。あとほとんどクソでしょ、中華街なんて

最近丸くなったと言われる原だが、この日は毒舌が火を噴く。

「クソ」と言われて否定する地元横浜のファンに、

「そんなことない? じゃあどんくらい行きつけがあるんですか、2軒くらい? (客「3軒!」)…3? じゃあそれ以外クソで。あと俺の知ってるおかゆ屋入れて4軒。あんなでかいナリして4軒しかねぇんだ、中身のある店が。」

 

原の毒は次第に熱を帯びてくる。中華街に何の恨みがあるのかという程に。

「ホントわけわかんねぇ中国人が何か激マズなもの出して『中華街です』とか、威張ってんじゃねーよ。ただでさえ日本人は中華料理好きなんだから、中国人に威張られる筋合いはねぇのよ。俺も好きだ! 中国料理が!……そういう気持ちで今日はやっていきます。」

 

 

前のゆったりとしたムードの反動のように、あるいは原の中華街への鬱憤をぶつけるように、ここからは怒濤のロックナンバーを繰り出す。

"coral reef"から"殺し屋がいっぱい"、"from resonance"と来て再び"笑うDJ"。2ndと7th。過去と現在を行きつ戻りつしながら、駆け抜けるような高速チューンが止まらない。

過去、川崎がここまで速弾きを立て続けに唸らせまくるライブがあっただろうか(そんなにピロピロさせる曲自体があまりなかったから多分ない)。

久々に聴く"from resonance"でも、荒井の声の伸びがよく響いていた。若い頃の勢いで生まれた曲に、歳をとって円熟したボーカル技術が載る。不思議な感覚だ。

 

そこからの"笑うDJ"である。

イントロはほぼないが、荒井が歌い出してから、全員のパートが一斉に入るあの瞬間がたまらない。

アルバムは全体的にローファイなサウンドに加工されている。そのため、1曲目のあの入りが少しこもっているような感じもして若干モヤッとするのだが、ライブでは「ローファイの制約」が一気に取り払われ、爆発するような勢いの入りに変貌する。

前回のライブを見た時にも書いたが、"笑うDJ"はライブで化ける。いや、"笑うDJ"だけではない。

今回のアルバムに不安や不満がある人こそ、ライブに足を運ぶべきだと思う。

 

鳴り続ける轟音も"I Love You Wasted Junks & Greens"をピークに、もうすぐ終わりの気配が漂い始めた。

新譜のラスト曲"最終列車"のイントロで、日曜日の夕方のような、儚く切ない気分になる。

荒井の歌をしっかり聴かせた後、アウトロで川崎ギターがまた「歌い」出す。音源ではフェードアウトしていくアウトロも長くとり、好きなように演奏は続く。

(いつもどおり)うつむいていて顔は見えないが、ソロを弾く川崎は本当に楽しそうだ。

 

 

「いつも言ってるので口癖みたいになっちゃってて説得力あるかわからないんだけど」と荒井が締めに向けて言う。

「俺たちみたいなバンドは特に、好きなことをやり続けて、やり散らかしてここまで来たんですよ。でもまたこうやってレコ発やりますなんて言ったら、昔から来てくれる人とか初めての人も来てソールドしちゃうなんて、ただただ凄いなって。」

「だから、1人1人に握手して…なんなら、サバ折り……抱きしめ作業みたいなことをしてもいいと思ってるんですけど」と一度落としながらも、

「それぐらいみんなに感謝しています。本当にありがとうございました。」

 

と、しっかり挨拶をした。そして原に目を向け、

「じゃあ、締めの一言を……」というと、

「……ちょっと思いついた話が……」と話し始める原。これは原なりの締めの挨拶が来るか?と思っていた。

が、

川で、お墓みたいな石板を拾ったんですよ。」

…?

「バーベキューしてたら、何か古代文字みたいなのが刻まれてる石板で。で、コレ何だろうと思って持って帰って。その後二年くらい、その間ウチに居候が住みついてた部屋とかに放置してたんですよ。

その後『あっ、そういえばあの石板どこにあんだろう』と思って、そしたらその居候部屋の壁とベッドの間に石板が落ちてたの。で、拾い上げたら、石板にガムがついてんの(会場笑)。居候は部屋の中でガムを『ペッ』て吐き出す生き方をしてたのかと思うと、猛烈に怒りがこみ上げてきて」

……!?

「それから、近所に行き付けの文化財センターがあるんでそのガム付いた石盤をもっていったんですよ。つい最近鑑定結果が出まして。なんか室町時代の結構な古ーい文化財で、『いや、これは素晴らしい!』って。ガム付いてるけど。」

 

……締めと全然関係なかった。

普通に面白エピソードで会場には笑いが起きるが、ここで荒井がフォロー。

「そんな古の石板とともに(会場笑)、俺たちももう何曲かやって帰ります。」

 

古の石板とともに奏でられたのは、"ピルグリム"。

川で泥にまみれ、部屋でガムにまみれ、それでも石盤は500年の間をさまざまな場所で過ごしてきた。

the band apartも、泥にまみれて転がって行く。SHEDバッグに詰め込んだ過去は捨てない。

そういうことにしておこう。

 

今後も定番となるかもしれない"ピルグリム"から"夜の向こうへ"につなぐ。前作"街の14景"と今作"謎のオープンワールド"は、様々な面で表裏一体なのかもしれない。

 

「こんな感じで、俺たちいつでもライブやってますから、また遊びに来てください。今日はありがとうございました。ザ・バンドアパートでした。」

一言荒井が添え、最後は"消える前に"。

クチロロの村田シゲには「エモ逃げ」と冗談交じりに揶揄された*1この曲だが、ベタに最後に持ってくると、やはり雰囲気が出る。曲も歌詞もあまりにもベタにエモくて、それが昔からのファンの中には受け容れられないという声もわかる気がする。

僕らファンはそれを受け容れるも良し、そうでなければ過去曲に喜ぶも良し。

 

バンアパは今も過去も否定をしない。「好きなことをやり散らかす」スタイルに合うのは、自分も好きに楽しむことだと、改めて思い知らされた。

 

 

アンコールの手拍子とともに登場した荒井が、「ツアーの思い出に写真を撮っても良いですか」というと、フロアから高い歓声が上がった。

原「『写真撮っていいすか』っつった後に……『フゥォォォ(裏声)』って(笑)なんなんだろう」

と真っ当なツッコミを入れてから、そのままファンの「ノリ」について思うことを話す。

 

「そういえば"higher"のときに、『ワン、ツー』っていうアレ……不思議な感じするよね」

前編で書いた例のコールについて、初めて(僕の見た限りでは)公式に見解が示された。

荒井は「まぁ嬉し恥ずかしって感じだね。いや全然いいんだけど」と、そう悪くない感じで言っていたが、ここから原の毒舌劇場、第二幕が開く。

 

原「こっちが要求したワケじゃなくて、何か勝手にできあがっていくルールみたいなのがあるんだろうね、やっぱ。だからファンのクソみてーな女が…」

荒井「ぶはは、いきなり思い切ったことを」

原「うん、クソアマがね、そん中で『えばってる』ヤツとかもできてきて。『今そのタイミングじゃないからね!』とか言うの。ホント絞め倒してやっかなと思うから。連れてきて、そういうヤツいたら」(会場笑&盛大な拍手)

そう、バンアパにもいるのだ。毎回地方のツアーを追っかけ、最前列に陣取って食い入るような眼差しを向ける系の女子とか元女子が。

えてしてそういった人物は「バンドのメンバーと仲が良い」つもりになり、気がついたら「自分もバンド関係者」であるかのように思い込んで振る舞ってしまう(それは男にもいるか)。

そういった「固定ファンの弊害」的な話はまた別の記事で書こうと思うが、バンド自らがこうやってズバッと切り落とす発言をしたのは驚いた。

「これが原昌和」といえばそれも納得だが、それにしてもこの歓声。ファンの中でもそういう「川崎が出てきた瞬間に金切り声上げてひっくり返っちゃうような*2」声の大きなファンの振る舞いに思うところある人は少なくなかった、のかもしれない。

 

そのままアンコールのMCはグダグダの日常会話になだれ込み、本編とはうって変わって「終わり感」ゼロに。

荒井「こんな話が最後でいいのか(笑)」

原「クソアマとか言ってすみませんでした」

お後がよろしいようで。

 

 

気を取り直して荒井、「じゃあ懐かしいのダダダッとやって帰ります。」

「ダダダっと」の言葉とともに木暮がスネアをたたき込む。

新譜も、震災も、一切のコンセプトから外れたルール無視のアンコールは、懐かしというかこれまた珍しの"KATANA"、そして「準定番」とでもいうべき"beautiful vanity"。

どちらも本編では1曲も演っていない3rdアルバム"alfred and cavity"からのナンバーだが、本編ラストで少ししんみりしたムードをリセットするようなラフなムードで、リラックスしながら楽しむ。

 

"beautiful vanity"でガッチリと盛り上げたまま全員が舞台袖にハケると、ダブルアンコールを求める拍手を待たずに原が独りで舞台に戻ってきた。

 

「本日はご来場、ありがとうございました。」

と、終演アナウンスの真似をして礼を述べると、

「えー、舞台上で不適切な発言があったことを、お詫び申し上げます。バンドというのはいくらシブがっててもタダのショーなので、一応キャラ付けが。毒舌キャラというキャラですんで。

なので、不適切な発言があった場合は『そういうテーマ』の下で僕が喋ってるのだというご理解を頂きまして…」

 

確かにこの日の原のMCは攻めていた。攻めすぎて「中華街の中国人」のくだりとか若干引いてる人もいたくらいだ。

何が炎上につながるか分からないこのご時世、メタ発言で身を守りつつ、最後の最後まで笑いを提供する。老獪とも言える。

 

「それでは、皆さんの健康を願って一本締めで終わらせていただきますが……『よぉーーっ』って言うのが面倒くさくなったんで、いきなりやります。」

えっ。

「で、合わなかった人は、死にます。」

えっ。

「だって健康を願ってやるわけですからね。出来なかったら死にますのd(パチーン!!)」

言い終わるか終わらないかのうちに不意打ちの一本締め。笑い声と拍手、「合わなかったー!」「死ぬわー!」というざわめきの中で、宴は終わった。

 

 

興奮と笑いと謎に包まれた、広大なオープンワールドの旅は、まだ始まったばかりだ。

バンドも、ファンも、それぞれのお気に召すままに。

 

 

SET LIST

  1. 禁断の宮殿
  2. higher
  3. the noise
  4. 廃棄CITY
  5. The Sun
  6. Falling
  7. 月と暁
  8. 裸足のラストデイ
  9. 遊覧船
  10. 8月
  11. coral reef
  12. 殺し屋がいっぱい
  13. from resonance
  14. 笑うDJ
  15. I Love You Wasted Junks & Greens
  16. 最終列車
  17. ピルグリム
  18. 夜の向こうへ
  19. 消える前に

  en1. KATANA

  en2. beautiful vanity

*1:『熊枠』放送内より。

村田いわく「バンアパのファンは最後にこの曲持ってきて、原がヒェェェ(顔真似)ってやって、センター(川崎)がバンバンバンバン頭振ってりゃだいたい喜びますよ。荒井と木暮は誰も見てないから」という、愛のあるいじり方だが言いたい放題の評である。

*2:またしても『熊枠』より。原のこの発言で「金切り系」「金切り隊」という呼称が生まれた。