As You Like It (前編)(the band apart @横浜F.A.D 2015,03/15)
バンドでも何でも、長く続けていると、本人の意図するとせざるとを問わず様々なものが蓄積する。
1998年結成、活動17年を数えるthe band apart(以下バンアパ)の場合、それまでにリリースした100以上にのぼる楽曲の中で自ずと決まってくる。定番化したもの、あるいは久しく演ることのないものが。
そうやって何度もライブを重ねていくうちに、良かれ悪しかれ自分たちのやり方が「型」として定まっていく。
それは、ファンも同じなのかもしれない。
バンアパは7枚目のアルバム"謎のオープンワールド"を1月にリリース。さて3月から始まるツアーではもちろんセットリストの中心を新譜の曲が占めるだろうと予想されていた。
ところがツアー開始の2日前、エンジニアの速水直樹がメンバーの様子をこう映している。
懐かしい曲やるね https://t.co/3h6zoNHYs5
— 速水直樹 (@Naoki_HAYAMI) 2015, 3月 5
新譜のレコ発にむくりと頭をもたげる、暫く眠っていた過去曲。高まる期待の中、新旧ごちゃ混ぜの「謎のツアー」が始まる─────
3月15日、横浜。
中華街を通り抜けて会場のF.A.Dに着いたのが17時50分。開演10分前ぐらいだったので、急中へと急ぎながら外の物販ブースを横目で見る。
おや。
目の錯覚かな…開演10分前に外の物販売り場で原さんが談笑してるんですけど……
— もみあげーしょん (@mommiagation) March 15, 2015
不思議に思いながら入ると、チケットと引き換えたいいちこのコーラ割りを飲み、開演を待つ*1。
さすがにソールドアウト、人が多い。スタッフが何度も前に詰めるようにアナウンスしていた。
10分押しの18時10分、場内の暗転とともに、チップチューンのオープニングSEが流れ出す。
歓声に迎えられて登場したメンバーが楽器を手にすると、SEのリズムに合わせて木暮のカウント→短いフィルインで始まった曲は、新譜から"禁断の宮殿"。
アルバムでもチップチューンの"Save Point A"(スキット)からこの曲への流れがハイライトのひとつになっているが、今回はそれをより強調してツアーコンセプトを明確にしてあると感じた。
激しすぎず、勿体つけすぎず。ライブ初お披露目の曲でオープニングを飾る。
「ザ・バンドアパートです。よろしくお願いします!」
1曲終わって荒井が短く挨拶をすると、同じテンポで"higher"をつなぐ。
ワンマンでも、いつもと同じように正面からファンに挨拶をする荒井の姿は変わらない。いや、むしろ昔よりも素直に誠実さを表すことができているのかもしれない。
"higher"─────ライブで演らない日はないと言っても良いほどのド定番曲で、これは「懐かしい曲」ではない。
ラスト前までは静かでジャジーな雰囲気を漂わせ、間奏も(長年演り続けるうちにずいぶん技巧的になったけれど)淡々と演奏し続ける。ライブの中でこの曲はクライマックスには持って来られないものの、盛り上げのための2つの「お約束」のようなものがファンの間で共有されている。
ひとつは、ラストのサビ前に一度ブレイクするタイミングで、フロアから「ワン、ツー!」とカウントのコールが入ることだ。
特に「ライブでの一体感」のようなものを追求しないバンアパのライブの中で、唯一と言ってもよい、「全体で合わせる」ことが周知されている曲である。最初からそうだったわけではなく、ほぼ毎回やるうちにいつの間にか定着したのだろう。
これについては以前から賛否ある。わかりやすい「一体感」は盛り上がりにつながるが、他の多くのバンドでは数曲に渡って存在することもあるコールやレスポンスを疎んじる(特に古参の)ファンはこの「ワン、ツー」を嫌う*2。その気持ちも、わかる。
この日もいつもどおり、フロアからは大きく「ワン、ツー!」の声が上がっていた。
考えてみればこの曲だけ、そういう「型」ができあがっているというのも妙な話だ。メンバーはこれをどう感じているのか─────その答えが、およそ1時間後に明かされることになるとは、この時は思っていなかった。
もうひとつの「お約束」は、この曲のアウトロで川崎のアルペジオが長く繰り返されると、そのまま別の曲にノンストップで移行する、というものだ。それがどの曲かは、かなりのバリエーションに富む。
メインアクトでないときやフェスでは短く切り上げて適当に次の曲に入るが、この日はワンマン。存分に溜めて、ここから「何が来るか?」という期待を高めていく。
鳴った音は聴き慣れない、しかしどこかで聴いたようなフレーズ。
最初は何の曲か分からなかったが、数秒後にはそれが"the noise"(アルバム未収録)だと分かった。
会場の其処此処から散発的に声が上がる。しかし、心なしか声の主のテンションは高かったような。たぶん古くからのファンか、レアトラック好きな人間だろう。
ひと昔前のバンアパの代名詞である複雑なリズムに揺れる。それをギターで刻みながら歌う荒井。これは確かに事前に練習が必要だと納得する。
ソロ活動スタートで「ボーカリスト」としての地位を固めつつある荒井だが、根はやはりギタリスト。ライブ中の視覚的には川崎や原が目立つが、実は荒井も相当にすごいことをしているのでは*3。
"the noise"でスイッチを切り替えると、再び新譜に戻って"廃棄CITY"へ。"the noise"同様、横ノリから縦ノリに移行する曲構成になっていることに気付く。ここからエンジンをかけていくようだ。
第1部とも言うべき一連の曲が終わると、短いMC。
荒井「今日いっぱいやりますんで、みんな無理しないでね。体調悪かったら出たり入ったり、立ったりしゃがんだり…まぁそこでしゃがんだら結構危ないと思うけど(笑)そんな感じで、各々楽しんで帰ってください。」
原「今日始まんの早かったっすね。俺(開演が)7時だと思ってて、おかゆを食べに行こうと思ってたんですよ。だから体内時計的にはまだおかゆ屋さんにいる…。」
開演前に見た光景は、錯覚ではなかったらしい。
「それでは。」荒井の一言で木暮がカウントを開始。
"the noise"にも驚いたが、予想外の懐かし曲はまだ続く。
まず"The Sun"。
2011年、東日本大震災へのチャリティに作成したライブ会場限定シングル"detoxification"のリリースからしばらくは必ずと言っていいほど演っていたが、2012年いっぱいくらいを境に見ていないため、これはもう封印されたと勝手に思っていた。
「もう(震災から)4年経ちましたけど、今回はあえてああいう曲をやって。皆わかってるとは思うんだけど、改めて思い出してもらうきっかけになったりしてもらいたいなと思って入れてみたんですけど。」
後のMCで荒井が"The Sun"について話す。
同じテンポで続くのは"Falling"(4thアルバム"Adze of penguin")。
これは4thのリリースツアー(2008年)後はほとんど演っていないのではないか。僕がバンアパのファンになったのは4thが出た後なので、これは一度もライブで聴いたことがなかった。
作られた時期も意図もバラバラだが、こうして連続で聴くと、まるで最初からこの2曲が対になって作られたような気さえしてくる。
そして"月と暁"。
アレンジ自体は音源から変わらないが、シンプルなフレーズゆえにメンバー自体がよく動く。
荒井が飛び跳ね、原は足を踏み鳴らし、もちろん川崎はヘッドバンキングを止めない。川崎はここのアウトロで弾き方も相当に荒々しく、リズムを無視するかのように、ラフに弾き倒す。いななく高音域。
「オッサンの考えた中二」「スクールウオーズみたい」*4などといろいろ言われる(某掲示板では「アルフィー」とも言われていたとか)新譜の賛否両論曲をここにねじ込んできたのはなぜだろうか。
後でメモ帳に打ち込んだセットリストに目を通しながら、「もしかしたら」と思う。
この一連の曲タイトルがそのまま文になっているような気が。
"The Sun" is "Falling", "The Moon (rising) and the Daybrake" is coming─────
日は沈むが、そのころ東の空には月が昇る。やがて、暁の頃には再び太陽が見える。
「明けない夜はない」という使い古された文句の代わりに、太陽と月の明かりが照らす情景が浮かぶような。
いや、さすがにそんなベタなストーリー性は意図していないだろう。
しかし、昔の曲が新しい曲と織りまざることで、その時にはなかった意味を持ち始めるのを想像するのは楽しい。それは、「長くやっている」バンドにしかない特権だから。
MCでは"The Sun"の話の他に、今回のツアーで売り出したグッズの話。
荒井が「まずふざけたことを」と前置きしてから、宣材に使っていたドット絵のキーホルダー(ラバーストラップ)販売について言う。
「アレを売ることになって、俺まず迷わず訊いたのが『まさかそれバラ売りするんじゃねえだろな?(会場笑)絶対にやめてくれよ』って。……傷つきたくないから。もう今年で37になるのに余計な悲しみを負いたくないなぁ…」
(今回から発売開始のラバーストラップはこちら。MVの配置に合わせて置いてみたくなった。)
シリアス・ユーモラス織り交ぜた荒井のMCで満員の会場が沸くと、"裸足のラストデイ"からモードというかムードが一変。リラックスしながら揺れる時間だ。
"裸足のラストデイ"後に、原がおもむろにファンキーなベースソロを弾き始めた。
はて、何だろう。今度は"the noise"と違って一度も聴いたことがないフレーズだ。
他のパートが合わさることで、それが新譜の"遊覧船"だと気付いたが、それにしてもベースが音源とはずいぶん違う。
音源のポストロック然とした雰囲気ではベースのフレーズがさして目立たないが、原がライブでは跳ねるような音でベースの存在感を際立たせると、それひとつでまるで別の曲のように聞こえた。
ベースって大事だ。そして、やはり「ライブでしか味わえない何か」というのはとても良い。
"遊覧船"が川崎の弾くリフで静かにアウトロを迎えると、そのまま"8月"へ。この2曲はテンポ自体もそうだがリフでの川崎のギターフレーズがよく似ている。それもあって繋がりやすい構成に感じた。
このときには周りから歓声が上がらない。
盛り上がっていないのではなく、「聴き入る」という空気ができあがっていた。ワンマンならではの、ライブで落ち着く時間ができあがるのも魅力だと思う。
この部はすべて最近の日本語曲。やはり、日本語詞になるとダイレクトに心情に響いてくる曲が多くなった。
それは歌詞のせいだけではなく、バンドが曲を作るその方向性自体が少しずつ変わってきたからかもしれない。
(後編へ続く)