曲書緩想文

もともと音楽の話ばっかりしてました。今はよくわかりません。

ロックスターによろしく(後編)(the band apart @心斎橋BIG CAT 2014 06/08)

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(前編はこちら)

 

「とりあえず、ドーピングパンダはもう一回活動を再開するべきだなと。」

 と原が言うと、ドーパンのファンも多い今日の会場は、大いに沸き立つ。

そして舞台袖にいるらしいフルカワに向かってステージに来て喋るよう呼びかけるも、フルカワはなかなか出てこない。

 

と、その時、荒井がギターに手を掛けて弾き出す。

バンアパの曲ではない。

ドーパンの"transient happiness "のイントロだ。

 

それに呼応して木暮も同曲のビートを叩き始め、原もそれに続く。

大盛り上がりの会場全体に響く手拍子。ここで登場しなければ「スター」ではない。

 

懐かしいイントロに吸い寄せられるようにフルカワが舞台袖から登場。

そのままバンアパ演奏の"transient happiness "をワンコーラス歌いきり、万雷の拍手を受ける。

 

思いもかけない呼び出し方に「勘弁してくれ」と言うように戻っていくフルカワだが、その顔は嬉しそうでもあった。

そしてニヤリと「後でもう一回くらいやるか」と悪そうな顔で言う荒井。笑いと歓声の入り交じるフロアは、ここから先は一度も落ち着かない喧噪に包まれる。

 

 

ちなみに、このとき川崎は  "Flower Tone"でギターにトラブルがあったらしく、機材交換のために一度舞台袖へ引っ込んでいた。

 

余談になるけれども、バンアパを形容する言葉としてよく「確かな演奏力」という類のものを聞く。これ自体は全く間違いではない。

ただ、演奏力に定評のあるバンドのライブというものには2つのタイプがある。

「CD音源の完全再現」ともいうべき精巧な演奏を見せるライブと、アドリブやステージ上でのアクションが激しく「CDとは違った感じに聴こえる」ライブである。

どちらにもそれぞれの良さがあって、前者がダメだというわけではないが、ともかくバンアパのライブは後者に該当する。

 

そしてその代償か、実はバンアパは、ライブにおいて演奏があまり安定しない

リズムが走ったり、逆にもたついたり、

スティックを落としたり、声が外れたりするシーンは割と頻繁に見られ、

特に川崎のギターは酷いときは本当に酷いというくらい崩れることがある。

 

川崎の演奏力がない、のではない。

ライブになれば必ずする、過剰なまでのヘッドバンキングと、通称「ゴブリンスイング」と呼ばれる*1ド派手な振りかぶりがその原因になっている。

(参考画像)

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バンアパのライブの視覚的醍醐味のひとつであり、僕も川崎のこのアクション見たさにライブに行っていると言っても過言ではないのだが、やはりこれだけ激しく動けば、それなりに演奏のミスや機材のトラブルは免れない。

 

もちろん、良くない演奏よりも良い演奏の方が見たいという気持ちはある。

しかし、だからといってバンアパが演奏の正確さだけを追求して棒立ちで無難なステージをこなすのは見たくない。

演奏力を保てるギリギリのラインで、音も体もグルーヴィーに動き回る。その危ないバランスが生み出すビートにこそ、僕は惹かれているのかもしれない。

 

 

閑話休題、後半戦は再び新作"BONGO e.p."の中から、"来世BOX"で始まる。

CD音源では"誰も知らないカーニバル"以上にパーカッションをフィーチャーした曲だが、4人セットで、しかもこのテンションで演ると、かなり違った印象を受ける。

 

そして、この日もう何度目かの驚きを味わう。

"来世BOX"のアウトロから、そのままシームレスで"環状の赤"のイントロへつながっていたのだ。

確かに、インタビューによると当初の木暮の構想は「BPMを一緒にして繋げる」ということだったという。

●「来世BOX」はいつごろ作ったんですか?

木暮:今年に入ってからですね。録る1ヶ月くらい前。当初の予定では、4曲ともBPMを一緒にして、リズムは基本四つ打ちにして繋いじゃおうっていうコンセプトがあったんです。だけど、誰もそういう風にせず(笑)。

●え?

(中略)

木暮:作っているときに「俺、もうちょい遅くするわ」とか「俺、もうちょい速くするわ」となってて、「おや?」って(笑)。川崎の「The Base」に至ってはなんだか分からないですからね。「BPM118って言ったよね?」みたいな(笑)。「The Base」のBPMは180ですからね。

CDでは結局その構想は破綻したけれども、ライブでは"来世BOX"のテンポをわずかに速くして"環状の赤"に合わせることで、それが実現された。

"来世"のアウトロでひとつずつ音が減っていき、だんだん静かになっていく……と思ったところに"環状"のイントロがドカンと入る。自然なつながりでありながらも同時に強烈なギャップも生まれ、思わず鳥肌が立つ。

 

 

その後は"Taipei"の原・川崎オンステージと短いMC(物販関係)をはさみ、"BONGO"の問題曲、"The Base"へ。

"カーニバル"、"来世"、"環状"と驚かされ続けた新曲のライブ演奏だが、この一曲はどうなるのか?と、ノリながらドキドキして待つ。

1番サビ、2番サビときて、一度沈むブリッジ。

ここから徐々に盛り上がって川崎のギターソロが来……

 

!?

 

一瞬でステージが暗転。

川崎だけにスポットライトが当たり、木暮・原・荒井の演奏がピタリと止まる。

響き渡るのは、モズライトから飛び出る雷のようなサウンドのみ────

CD音源にはない、川崎の超絶速弾きギターソロだ。

 

何小節かの速弾きの後で一斉に他パートが入り、オリジナルのギターソロに戻る。

時間にしてわずか数秒のこのソロが、鮮明に焼き付いている。正直に白状すると、僕はこのソロを聞いたら興奮のあまり叫びだしてしまい、音そのものはよく聴かなかったような。もったいない気もするが、致し方ない。

 

そのまま終盤は"I Love You Wasted Junks & Greens"、"free fall"とライブの定番曲で加速度的に会場のボルテージを上げていく。

そして、"coral reef"。ここで最高潮に高まった会場は、バンアパのライブにしては極めて珍しいダイブが起きる*2。大阪はいつもこうなのか!?と思ったが、荒井の「ウチらのライブじゃないくらい盛り上がってるなぁ」という言葉から、「大阪だから」ということでもないらしい。とにかく、この日の熱気は異常だった。

 

荒井が「何か人気があるバンドみたいにしてもらって」と笑いを取りつつも、会場に礼を告げる。ラストは"Eric. W"、そして"夜の向こうへ"の「Yeah,Yeah*3」コンボで合唱とダンスを巻き起こす。

"夜の向こうへ"最後のサビに入る時に照明がフッと落ちて、天井に星空のようなライトが輝く演出がすごく好きだ。

 

こうして本編が終了したが、当然、すぐにアンコールの手拍子が起こる。ほどなくしてアコースティックセットの準備をしたメンバーが現れた。

荒井が「昔から俺らを応援してくれる人もいると思うし、若い対バンの人が『ファンでした!』って言ってくれたりするのも本当にありがたいなと。まだまだ頑張らないとなと思います。ありがとう。」と改めて礼を告げ、"Moonlight Stepper"をアコースティックで演奏。軽快で、楽しくて、どこか妖しげなアレンジだ。

 

アコギからエレキに持ち替え、いよいよライブも終わりが見えてきたころ、

「じゃあ、もう一回フルカワを呼びますか」と荒井。

本日2度目の"transient happiness"を始める。再び歓声と手拍子。

しかし、しばらく待ってもフルカワは現れない。

「あいつ楽屋にいるんじゃないかな」とベースを弾きながら原が言う。観客も大きな手拍子を続けるが、一向にフルカワが姿を見せないことに、さすがに不安の色が出てくる。

1分、いやもう少し経っただろうか。同じフレーズを弾き続けながら荒井も「あいつ早く出てこいよー!」と焦れる。最後の最後でうまくいかない、のだろうか。

 

そのうち、荒井がギターから手を離し、木暮も(バスドラム4つ打ちは続けるが)手を止める。

手拍子も次第に小さくなっていき、アンコールにして思わぬところで盛り下がってしまうと思われたその時、原の視線の先に、フルカワが走って現れた。

前よりも大きな歓声が上がり、改めて"transient happiness"演奏再開。筋書きのないドラマが、ライブ会場で繰り広げられた。

 

ステージ上で言葉こそ交わさなかったが、かつて仲違いしたフルカワと荒井、そしてバンアパのメンバーは、ここで彼ららしい新たなリユニオンを果たす。

不器用なロックスター、フルカワユタカをツアー最初のパートナーに選んだことは、きっとこの先の旅路の明るさを暗示しているのだと思う。

 

フルカワを袖に送り返し、和やかな空気のまま最後は"Waiting"。

僕ら観客も、最高のライブへの感謝と、ここからの快進撃への期待を込めて踊る。

はるばる大阪まで来て良かった。バンアパと、スターに乾杯。

 

 

終了後、ダブルアンコールの手拍子を遮るように原がすぐにステージに現れる。

最近では恒例となった一本締め(2回やり直しになったけれど)で、盛大な拍手を受けながらライブを終えた。

 

SET LIST

1 . 誰も知らないカーニバル

2 . higher

3 . photograqh

4 . Rays of Gravity

5 . ノード

6 . クレメンタイン

7 . Flower Tone

- transient happiness (feat. フルカワユタカ) - 

8 . 来世BOX

9 . 環状の赤

10. Taipei

11. The Base

12. I Love You Wasted Junks & Greens

13. free fall

14. coral reef

15. Eric. W

16. 夜の向こうへ

 

en1. Moonlight Stepper (Acoustic)

- transient happiness (feat. フルカワユタカ) - 

en2. Waiting

*1:4th LIVE DVD "String 4 Snowman"の副音声で流れる、メンバーのコメンタリー中でスタッフがそう呼んでいると明かされた名称。検索しても全くヒットせず、正式な技法名ではない模様。

*2:10年くらい前の映像を見ていると、バンアパでもダイブしまくりだったのだが、これはメロコア全盛期。猫も杓子もダイブして「オイ!オイ!」言うのが普通の時代(バンアパの言葉を借りると「メロコアバブル」の時代)だった。バブルが去り、メロコアバンドとは完全に一線を画した現在はほとんどダイブする客はいない。

*3:"夜の向こうへ"の歌詞は「Yeah,Yeah」と見せかけた「家々」だが。