曲書緩想文

もともと音楽の話ばっかりしてました。今はよくわかりません。

時にはいちファンのように(toddle@渋谷TSUTAYA O-nest 2014,03/02)

「ちょっとヤバくないですか、Quasiと一緒にライブするんだって。ヤバいねぇ」

 
感情が昂ぶって言葉が出なくなると「ヤバい」を連発するしかない、ということがある。
最近の若者の話ではない。
toddle小林愛(38歳)である。
 
結成20年を迎えたロックンロール・デュオ、Quasiの日本ツアーに同行するtoddleの面々は、一発目のこの日、いつもより興奮していたように見えた。

 

20時ちょうど、いつもどおりNeutral Milk Hotelの"Jesus Christ"をオープニングSEにして登場したtoddleは、入りこそ「トドルはじめまーす」と田渕ひさ子がゆるく声をかけ、スローテンポの"chase it"から始まったが、2曲目の"I dedicate D chord"あたりで徐々に熱量を増していく。
個人的に、toddleは間奏でどんどん上げていくタイプのバンドだと思う。
 
1ヶ月前に正ドラマーの内野正登が脱退し、現在はサポートメンバーが交代でドラムを叩いている。この日は"TDK"こと竹田和永(江崎の別バンドSiNEのドラマー)を迎えていた。
「ドラムの所にマイクがないのが間違っているくらい面白い」
「何をしゃべっても拾ってくれる」というメンバーからの人物評。なお、ドラムについての話題はない。
僕も含め、内野のドラムに慣れているオーディエンスには若干の違和感があったものの、息は合っていたようだ*1
 
それにしてもこの日の小林は「Quasiと一緒に演奏する」ということでとにかくテンションが高い。
「今も(Quasiの2人が)すごい近くにいてドキドキしてるもん」
すごい近く─────確かに。

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江崎も言っていたが、
まだネットも普及していない時代、ジャケ買いで偶然出会ったバンドにしびれ、「一緒にライブすることなど夢にも思っていなかった」ぐらい遠くに感じていた憧れのミュージシャンと共演できる、というのは何にもたとえられないものなのだろう。
それはきっと、そこまでたどり着けたミュージシャンにしか味わうことができず、僕には一生わからない。
 
それでも、 その感動や興奮は、はたから見ていても十分に伝わってくる。
この日の各メンバーが着ていた服を振り返ると、
  • 田渕→ニューデザインのtoddle Tシャツ
  • 江崎→同上
  • 竹田→The Jesus Lizard Tシャツ(私物)
  • 小林→Quasi Tシャツ
いやちょっと待て。ちょっと。
 
いつもどおりの着地点が見えない居酒屋談義のようなMCと、定番の名曲たちでtoddleは会場を盛り上げていく。
「あったまったかな!?」と江崎は気にしていたが、大丈夫。Quasiに向けてフロアは十分すぎるほど温まっていた。
 
ラストの"eraser"。頭からかなり走っている。
慣れないサポートメンバーが原因か、それとも「Quasi熱」ゆえの暴走か。
 
しかし、それでも田渕ひさ子は構わない。
 
やや不安定なアンサンブルの中で光ったのは、田渕の歌だった。
伸びやかで、勢いづいたバックに負けない声量がある。
 
「上手い」というわけではないが、独特の響きをもった歌声は、そのギタープレイと共に向井秀徳*2に見出され、吉村秀樹*3に鍛え上げられ、田渕自身がtoddleの中で練り上げきた。
 
彼女の代名詞であるジャズマスターとともに、その歌声も着実に「武器」になっているのだろう。
(少なくともこの時よりはずいぶんと……)
 
それを示すように、Husking Beeの新作では、ギターではなく歌で(ギターもあるかもしれないが)ゲスト参加する。

(先日のHusking Beeの磯部によるツイート)

 
田渕のギターに途中接触不良で音が出なくなる場面もあったが、別の面で確かな力強さを感じた、勢いのあるライブだった。
 
 
toddle終演後に登場したメインアクトのQuasiは、まさに圧巻。
不勉強な僕はただ「すげえ!」としか言えないので全く記事にならないから詳細を書くことができないが、古くからのファンも、初めて見たtoddleや(1組目の)GELLERSのファンもノリノリで歓声をあげる迫力のステージだった。
 
さてQuasiのアンコールも終わり、僕は客電が点いて帰るかと後ろを振り返り、目を疑う。
 
僕の真後ろ、
フロアのいち観客として恍惚の表情でQuasiを見送っていた人物がいた。
 
小林愛(38歳)である。

 

SET LIST

1. chase it
2. I dedicate D chord
3. Dawn Praise the World
4. shimmer
5. thorn
6. Wind Chimes
7. eraser

*1:そういえば終演後、チケットカウンターの所で内野を見かけた。普通に見に来ていたようだ。

*2:2002年に解散したNUMBER GIRLのリーダー。同バンドの楽曲の殆どは向井がボーカルだったが、CD音源化されていない数曲で田渕がボーカルを務めている。

*3:bloodthirsty butchersのリーダー。NUMBER GIRL解散後に田渕が同バンドへ加入した後、積極的に田渕にコーラスを担当させ、時にはメインボーカルを取らせた。2013年に急逝。