曲書緩想文

もともと音楽の話ばっかりしてました。今はよくわかりません。

開拓者たちへ(FRONTIER BACKYARD @新木場STUDIO COAST 2014,12/14)

ちょうど2年前の12月、新木場コースト。長く活動休止状態にあった「AIR JAM世代」を象徴するバンドのひとつ、SCAFULL KINGがデビュー15周年を記念して、ワンマンライブを行った。

確か僕はその日用事で30分ほど遅刻し、開演時刻からだいぶ経って会場に着いた。フロアは超満員の大盛り上がりで荷物も多かった僕は近づくことを断念、二階で立ち見することにした。

そこから見た光景――フロアも、2階も、ステージも、会場のひとりひとりから伝わる楽しさやワクワクが、あんなに伝わってきたライブはここ数年でなかった。

 

そんなワクワクの渦の中心にいたのが、

田上修太郎(TGMX)、増渕謙司、福田忠章(TDC)。

 

そういえば田上があのとき「FRONTIER BACKYARD(以下FBY)も再来年には10年なんだよね」と言っていたのを覚えている。
「またその時には何かしらやりたいと思いますんで、よろしくお願いします!」と言っていたことも。
 

それから2年。はたして彼らはもうひとつの節目を迎える。

"10 surroundings"と銘打たれたそれはワンマンではなく、フェス形式で。

 

  

COMEBACK MY DAUGHTERS

avengers in sci-fi

YOUR SONG IS GOOD

the chef cooks me

BACK DROP BOMB

ASPARAGUS

8otto

BRAHMAN

RAZORS EDGE

the band apart

そして、LOW IQ 1。

大型ロックフェスに勝るとも劣らない錚々たるメンツが集結し、盟友の10歳のバースデーパーティーが行われた。

 

「僕がいらんこと言わなくても、今日はとんでもない日になるってことはみんな肌で感じてると思うんで、最後まで付いてきてくださいね!」

13時半、トップバッターのCBMD高本がそう言いながら始まったイベントは、出演したすべてのバンドが持ち時間の30分をエンジン全開で駆け抜けながら、FBYを祝った。

簡潔な祝辞に万感の思いを込めるバンド、

スキャフル時代から追い続けた背中と並べる喜びを吐露するバンド、

震災後の彼らの取り組み*1などから、人としての敬意を表するバンド、

形はさまざまだが、どのバンドも主催のFBYの出番までに、ファンも知らない人間も巻き込んで場をつくってゆく。FBYの出番までに11ものミュージシャンが出て、およそ7時間もの長丁場であったにもかかわらず、あっという間に感じる内容の濃さだった。

 

 

21時少し前。

サブステージでLOW IQ 1が出番を終えると、すでにスタンバイの終わっているメインステージに聴衆の視線が集まる。

ざわめく会場内にまもなく Funkadelicの"Get Off Your Ass And Jam"がオープニングSEとして響き渡り、それに合わせてフロアも二階席もハンドクラップでメンバーを迎える。

田上の合図とともに一斉に大音量でかき鳴らすと、そのまま"Wonderful World"でライブ開始。会場のある部分はダンスフロアに、ある部分はモッシュピットになり、曲の特定のパートではあちこちからハンドクラップが響く。

決まった盛り上がり方はないが、開始から数秒で全体が「FBYの空間」になっていたのはわかる。コアなファンも初見の客も、思い思いのスタイルで楽しめるライブというのはいいものだ。

 

間髪入れずに"TRACE NONE", "TWO", "city lights"と好き勝手に躍らせたあとで、短いMC。

今日は良い意味で楽屋が疲れる

楽屋ですでに3本の酒を開けていた田上は言った。ステージ袖を見ると、先ほど出番を終えたthe band apartの荒井や木暮の姿が見える。誰もが今日の主役のステージに熱い視線を注いでいた。

 

今回僕はフロアのわりと前方(モッシュピットができていたあたり)にいたので、時折後方を振り返ってみた。

さすがに1階の後方は見えなかったが、2階も身を乗り出して盛り上がっている。

今回のメンツを考えると、他のバンドがメインの目的でFBYのことを知らない客も少なくないだろうに、そういった「一見さん」をも一気に取り込む「楽しさ」のパワー。かくいう僕もFBYとして直接ライブを見るのは何だかんだで初めてだ。

 

世の中には、自分の知らない楽しい音楽、カッコイイ音楽がまだまだある。そんな未開のフロンティアを見せてくれるというだけでも、この日のイベントは素晴らしいと思う。

 

 

さて、後半戦は逆に「振りの決まった曲」が来る。

サビで手を左右に振る"Putting on BGMs" 、「タオルズ プッチュアハンズ!」と田上が煽ると皆が手にしたタオルをヘリコプターのように振り回す"hope"を2曲続けた。

普段、個人的にこういった「決められた盛り上がり方をさせられている」みたいで好きではないのだけれど、前半であれだけ自由な雰囲気を味わわせてくれると、タオルを回すのにも抵抗がなかった。しっかりと盛り上げる下地を作るショーの組み立て方は、計算か、天然か。

"HOPE"のロゴが入った、色とりどりのタオルが舞う(全然別のタオルも結構回っていたけど)。

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"missing piece"の時点で7曲、あまりのテンションの高さに、これでライブが終わるんじゃないかと思った。

「いやしかし、イベントのトリがさすがに30分で終わるハズないよな。でもなあ」と思っていると、8曲目の"Flowers of Shanidar"のイントロで田上が「ありがとうございました!」と締めの挨拶に入る。

もう終わるのか!早い!*2

曲の終わりにも「ホントにありがとう!」と何度も頭を下げる田上。

この日、ここに集ったすべての人に対する感謝を込めて、祭りを終える。

 

 

が、終わっていいはずもなく、当然アンコールが鳴り響くのだ。

およそ2~3分の間(だったと思うけど体感ではもっと長かった気がする)鳴り続ける「FBY!!」コール。

 

着替えたメンバーがもどってくると、増渕がニコニコしながらマイクの前に立って言った。

「あ、あ、あ、ケンジです」

「僕は『人前が苦手』っていう、バンドマンとしては致命的なハンデを負って栃木から出て20年やってるんですけれど、何とかやれているのも、メンバーとみんなのおかげです、ありがとうございます」

「みんな苦しいときとか助けたいと思うんですけど。神さまだったら金の延べ棒とか全員にプレゼントしたいんだけど、おれ神さまじゃないから。せめて世田谷区の薄暗い部屋の中で皆の健康と幸福を願っています」

不器用で口下手で自虐的だが、優しさと熱さが充分に伝わる。ギターの腕はもちろんだが、それだけでなくその人柄が多くのミュージシャンたちに愛されている所以だろう。

 

そして田上は4本目のビールを開け、サポートのチャーベこと松田岳二、古川太一にも10年間の礼を述べると、

「今日出てきてもらったバンドがホントみんな大好きなんですよ…大好きなんです」と、シンプルきわまりない言葉で感謝を伝えた。

 

アンコールの幕を開けたのは、10年前にリリースされた1stアルバムの1曲目、"White World"。

「幕を開けた」と書いたけれど、そのイントロで文字どおりメンバーの背後で、巨大なスクリーンに「FRONTIER BACKYARD」のロゴが出現した。このタイミングでのタイトルコールのような演出に、歓声が上がる。

結成当初から見てきたファンではないけれど、僕もFBYは数年前に「1stから順に追っていった」ので、数年間のいろいろな思い出が思い起こされる。

たぶん、もっと古くから見続けてきた人たちは、涙が出てもおかしくないだろう。

「10年なんてあっという間ですよ」と先のMCで田上は言ったが、それでも10年。楽しいことも、辛いこともフラッシュバックするのだと思う。

 

"POP OF D."を挟んでラストはまた1stの"The Room"。

もともと動きの激しかった古川太一がひときわ大きく動く。

 

そしてアウトロ。

だんだんとゆっくりになっていったかと思ったら、突然爆発したかのように激しいフリー演奏を展開し出した。

演奏をしながら松田、古川がフロアに飛びこんでそのまま何処かに消えてゆくと、まだ曲は続いているのに大急ぎでセットが片付けられていく。

いつのまにか増渕が舞台裏に捌けると、そのままアンプが撤収されていく。

ステージには、叩きつづける福田と田上の2人。

そこでは激しい演奏の最中にスタッフと、他バンドのメンバーまでが総出で走り回って撤収作業をするというカオスな光景が繰り広げられていた。

最後は2人で合わせて一気に演奏を終わらせると、破裂音とともに掛かっていた「FRONTIER BACKYARD」の幕が落とされた。

 

しんみりとは終わらせない、祭りの終わりは唐突な方が余韻が残る。

 

「自分が楽しむ」「相手も楽しませる」この空間にいられたことが、とても幸せだった。

11年目の開拓者たちに、乾杯。

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SET LIST

1. Wonderful World

2. TRACE NOTE

3. TWO

4. city lights

5. Putting on BGMs

6. hope

7. missing piece

8. Flower of Shanidar

en1. White World

en2. POP OF D.

en3. The Room

 

*1:暖かい靴下を送ろう(AKO)計画」として被災地への支援活動を行っている。この日も会場に靴下の寄付を募るコーナーを設けていた。

*2:初めからそのつもりだったのかもしれないが、もともとのタイムテーブルはアンコールをたぶん加味しないで45分間の予定だったので、もしや前のバンドまででだいぶ時間が押していたから削ったのでは、という邪推。