曲書緩想文

もともと音楽の話ばっかりしてました。今はよくわかりません。

オンガクハ コッキョーヲ コエル(Adebisi Shank @新代田FEVER 2014,12/19)

この日、西の小さな国から飛んできた流れ星が、遥か東の小さな国の、東京の、世田谷の、薄暗い地下室で輝いた。

星の起点は、アイルランド。名は、Adebisi Shank

9月に解散をアナウンスし、本国ではすでにラストツアーを終えていたが、日本の盟友LITEに誘われ、最後の最後に来日することになっていた。

 

 

ドラムスのMickがバスドラムのペダルを踏むと、バスの音と同時に合成音声のような機械音が鳴る。一緒に現れたギターのLarと目配せをしながら規則正しくペダルを踏んでいく。だんだんその四つ打ちのリズムが速まるにつれ、真っ赤なマスクで顔を覆ったベースのVinが登場。フロアから上がる歓声。

3人の準備が整うと、そのまま"International Dreambeat"でライブがスタートした。

凄い。

CD音源よりもはるかに圧倒的な音圧と、激しい動き。

後期のAdebisi Shankはギターに大きくエフェクトをかけ、シンセサイザーのように音を出しているものが多い。それによって大人しくなったのかと思ったら、全くそんなことはなかった。

初期のロック色を前面に出した曲とも違和感なく混ざり合い、セットリストにメリハリを与えている。

 

1曲1曲、1音1音、二度と演奏されることのない楽曲たち。シンプルな構成で複雑なマスロックが次から次へと繰り出されていく。

1字ずつ、日記の最後のページを埋めていくように。1枚ずつ、花弁を剥がしていくように。その度にAdebisi Shankというバンドは終わりに向かっているのだという思いが伝わる。

「解散ライブ」というものを今までに何回か見たけれど、やはり1曲にかける思いは、違う気がする。

 

ただ、Vinはマスクを被りながらもユーモアのある振る舞いを見せる。

曲間では「アツイ!」と言ったり、"Masa"の曲中でブレイクを繰り返すパートでは「モリアガッテル!?」と叫んだりしてフロアの熱量を上げていく。

そんなふうにして、アッと言う間に時間が経っていった。

 

アンコールはすぐに登場。もともと落ち着いた曲があまりストックにない、というのもあるけれど、この日は最後まで全力全開で突っ走る気でいたのだろう。

ライブ終了間際、Vinがこの日の為に覚えてきたであろう日本語で、こう伝えた。

オンガクハ、コッキョーヲ、コエル

カタコトの日本語に、会場からは盛大な歓声と拍手が起きる。
アンコールになってから曲も動きも激しくなり、フロアの興奮も高まる。
 
最後は"Mini Rockers"。
オリジナル音源から長さを自在に変えられるラフな曲構成。曲の後半、いわゆる「間」にあたるパートに入るとVinがフロアに降りた。彼はそのまま聴衆にジェスチャーでしゃがむように促す。始めはすぐ近くにいたファンが、そしてVinの意図が放射状に会場全体に伝わって、その場にいた全ての聴衆が床にしゃがみ出した。
カウンターの付近にいた女性も、
PAブース周りの外国人も、
ドアの前で見ていたサラリーマンも、次々に興奮の面持ちで身をかがめていく。
ここから何が起きるか。言葉がなくても、ほとんどのファンは了解していた。
 
全員が座ったことを確認したVinはステージに戻り、「間」の演奏に加わる。
そのまま何小節か溜めて…溜めて……
 
スネアの乾いた音で一瞬のブレイク!
 
それを合図にしゃがんでいた聴衆は一気に跳び上がり、踊り狂う。
インストのバンドのライブでダイブが起きるのを、僕はこの日初めて見た。
 
絞り出される残りわずかな時間。
それは曲の終わりが、このバンドの終わりを意味していた。
育ってきた文化も違う、言葉もわからない、そもそも歌がないから言葉がない。
それでも伝わる思い。
これ見よがしな「演出」を一切しなくても、音楽で感動は与えられる。
ただただ、楽しく、悲しく、美しい時間だった。
 
かき鳴らしたまま曲が終了し、LITEのメンバーが袖から登場。最後はフロアをバックに集合写真を撮って、ライブは終わった。
 
 
この日、西の小さな国から飛んできた流れ星が、遥か東の小さな国の、東京の、世田谷の、薄暗い地下室で輝いた。
 
それは音楽の長い歴史から見ればほんの一瞬だけれども、その輝きの目映さを、僕は忘れない。