曲書緩想文

もともと音楽の話ばっかりしてました。今はよくわかりません。

らしく・めずらしく(the band apart@所沢航空公園 tieemo festival 2013,11/10)

ステージで準備をするthe band apartのメンバーとスタッフ。それを見守るファンたち。
本番のMCでは盛んにメンバーに(特に原に)声をかけるファンも、この時は真剣な目で食い入るように見つめる。

 

サウンドチェックをひととおり行うと、リハーサルとして"Beautiful Vanity"を全体で演奏。
再チェックのため一度中断するも、結局一曲まるまる演奏しているのを間近で見て、すでにアガっているファンもいる。

曲を終えるとまたサウンドチェック……
…サウンドチェック……?

いや、

木暮のドラム回しがだんだん加速してゆく。
合わせるように川崎が速弾きをしだし、ジャムセッションのようになってゆく。
3rdアルバムのイントロトラック "72"の流れだ。


そしてそれがピタッと止まると、4カウントで"FUEL"のイントロが響く。
何と、すでに本番に突入していた。

リハーサルと本番の境界線を消し去ったことで、リハーサルすらライブの一部と化す。
ごく自然にこんな芸当ができるのは、やはり「叩き上げのライブバンド」ならでは。
始まった瞬間に強い秋風が吹き、木の葉がステージ周辺に舞う。オープニングSEもないのに、まるで映画のような幕開けを見る。*1

"FUEL"が終わった後は間髪入れず"cerastone song"。
1stアルバムの1,2曲目という順番で、彼らもThe Get Up Kids, Husking Beeたちと同じく「初期衝動」を意識したセットリストか
(さすがにこの後は最近の曲も演ったので「初期曲縛り」ではなかったが)。


「どうもありがとう、ザ・バンドアパートといいます! 今日は呼んでいただきありがとうございます! 
何か、天気悪いって聞いてたけど、意外に良い天気でね、良かったです。
初めて見た人も一度見たことがある人も、今日は最後までよろしくお願いします!」
と荒井が気持ちの良い挨拶をして観客からの拍手を浴びる。

いっぽう、原はしきり口元をティッシュで拭いながら、

「さっき、そこにサムゲタン売ってる店あるでしょ。あそこでサムゲタン二杯食いしちゃったんですけど、
鳥の肉が前歯にすさまじい勢いで挟まっちゃって……それで最初の二曲集中できなかったんですが。
もうここからはしっかりやれると思います」
とボソリと語り笑いを誘う。

ファンからの「原さーん!」という声援を受けて原のシュールな語りは続く。

「航空公園は小3のときに友達が住んでいて、紅茶を飲ませてくれるっていうから遊びに行ったんですよ。俺甘いものたまんなく好きなんで。優しい気持ちで砂糖ガンガン入れてたんだけど、それが全部塩だったっていう。そんな感じで今日はよろしくお願いします」


客が爆笑するユルい空気の中、木暮がカウントをとる。

「ガッ!」と鋭く切った4人の1音が響いた瞬間にその空気がピリッと張り詰める。最新アルバムの最もハードなナンバー"ノード"。
数秒前のユルさは一瞬で消し飛び、鬼気迫る演奏モードに突入した。
このギャップもバンアパの持ち味だ。

"ノード"の後はライブの定番"Higher"に移り、秋の乾いた空気に心地よく揺れる。

個人的に、バンアパの曲は聴く季節ごとに違った表情を見せるものが多い気がする。
夏に聴いたときにはわからない魅力が冬に聴くと出てくる、などといった不思議な現象に出会うのだが、それはまた別の機会に詳しく書きたい。


"Higher"がライブの定番になるのは、そのアウトロからそのまま別の曲につなぐときのパターンの豊富さゆえだ。
それは"amprified my sign"だったり"from resonance"だったり"Photograph"だったり*2、「この後何が来るんだ!?」とワクワクするファンも多い(と思う)。

この日はアウトロ後にすぐ曲にいかず、再び木暮が"Higher"同様のディスコビートを叩き始める。
観客に「!?」という表情が浮かぶと、それに合わせて川崎が弾くのは"Eric.W"のイントロ。
僕も20回弱バンアパのライブを見た中で、このつなぎ方は初めて見た。

意外なタイミングで登場した、初期を代表するダンスナンバーに、会場の盛り上がりは最高潮。


曲が終わって原が言う。
「今やった最後の曲なんですけど、最初どうやって入っていいかわからなくて、バンドが挙動不審になっていたことに、皆さんお気付きでしょうか……」
やっぱり初の試みだったのか。場内に笑いが再び。

荒井「それ言われなきゃ気づかないって。ジャムセッションみたいになってたね。」と言ってから、唐突に「そんなんでいいんじゃないかなと思います!!」と大声。観客も呼応して歓声を上げる。

「最近ね、もう最後に大きい声出せば何言ってもわりと何とかなるんだということに、バンド10年くらいやってようやく気付きまして。」とぶっちゃけると、客からは
「原さん大きい声出してー!」のコール。

荒「いやさっき曲のときに大きい声出しまくってたじゃない」

原「……そんなんでいいんじゃないかなと思います!!」

MCではいつも朴訥につぶやく原が珍しく大声のファンサービス。お祭り感満載だ。

原「いやもう俺らが言いたいことはひとつしかなくて、とにかく物販買ってくださいということですよ。俺、とにかく金が欲しくてですね。みんなも金欲しくないですか? お金欲しい人!?」
(客:「ウオォォォ!!」と一斉挙手)
原「じゃあ物販買ってってください!!(大声)」


場内が爆笑する二度目のMCから、荒井が今日の礼を再び述べ、ライブは終盤へ。
荒井のカッティングから始まる極上のポップチューン"夜の向こうへ"。
四月に初の日本語詞アルバム"街の14景"をリリースした際、荒井はインタビューで
「俺らのことをあまり知らない人たちからも『これいいね』と認めてもらえるようなものになれば」
と語っていた。

その言葉通り、昔からのファンにとってはひとつの集大成のようでもあり、バンアパを見るのが初めての人をもぐっと引き込む、そんな力を持った曲と演奏だ。

そしてその盛り上がりのままラストはこれも定番の"I Love You Wasted Junks and Greens"。
四人のソロ回しで会場を沸かせ、原が縦横に動きまわる。


秋の祭典に相応しいステージで、いつもの彼ららしさと普段と違う顔が存分に見えた。
あっという間のようでもあり、リハも含めてすごく長く感じるようでもある、濃密な時間だった。

*1:この日は演っていないが、1ヶ月前に会場限定でリリースされたバンアパの最新音源"TOKUMARU e.p"には"秋風"という曲がある。だから何だということもないのだが、その曲を思い浮かべずにはいられなかった。

*2:最新アルバムでさらにそのバリエーションは増えた