曲書緩想文

もともと音楽の話ばっかりしてました。今はよくわかりません。

絞り出す初期衝動(Husking Bee@所沢航空公園 tieemo festival 2013,11/9)

tieemoフェス1日目も佳境となり、Husking Beeがサウンドチェックに現れる。すでに前に詰めているファンに見守られながらのリハーサル。

しばらく音出しをした後、磯部正文がおもむろに歌い始める。
ハスキンの曲ではない。

 

〈I wonder if I wander home, If I'll be fit to drink alone……〉

この後控えているThe Get Up Kidsの名曲"Mass Pike"である。これに会場から歓声が上がると、メンバーと目配せをして今度は同じTGUKの"Holiday"をバンドでコピー(途中で「あ、これ2ndだから明日か」と言って演奏中止したが*1)。かつてレーベルメイトでもあった今日の主役への敬意と、観客へのサービスを示して一度楽屋へ。
この後のステージへの期待に、ざわめきは止まなかった。


それから本番が始まる前に場内でかかっていたBGMは偶然か、toeが土岐麻子をフィーチャーしてカバーしたハスキンの"8.6"だった。原曲を大胆に崩し、しっとりとしたアコースティックナンバーに仕上げた名カバー。
そして、オープニングSEと共にバンドが再び現れる。四人が楽器を手にし、山崎のカウントで始まった曲は、"8.6"。この一致に気付いた様子の客はあまりいないように見えた(それだけtoeのバージョンが原曲から離れていたというのもあるかもしれない)ものの、そんなことは関係なく一気にファンは暴れ出す。

この日はThe Get Up Kidsに倣って彼らも「1st, 2ndアルバム中心のセットリスト」と銘打っている。つまり、ほとんどが暴れるメロコアチューンになっており、否が応でもファンのボルテージは上がり続ける。

磯部はリハーサル時にはマスクをしていたことから、おそらく体調万全ではない。
初期の絞るような歌い方をずっと続けることは難しく、とくに"Sun Myself","the Sun and the Moon"と激情的に歌を聴かせるナンバーを立て続けに歌っているのは苦しそうだった。時折、最近の喉に負担がかかりにくい歌い方に戻すシーンも見られる。
後半MCで、「1st, 2nd曲は若いなあと思いました」と苦笑していたが、やはり人は年をとる。それが良いとか悪いとかは関係なく。

それでも、初期衝動に突き動かされるように歌い続ける。これらの曲を作った時にいたメンバーはもう居なくとも。

……と思っていたところへ、
今日テッキン来てるんだっけ?」
というMC。
客席後方で手を挙げるオリジナルメンバーのベーシスト、テッキンこと工藤哲也が観客の注目を集める。
「あ、お久しぶりです。じゃあテッキンまた後でね」と磯部。テッキンに捧げる"Question"で会場を踊らせる。
バンドが一度解散した後、一度も会っていないということはさすがにないだろうが、こうして自分のいたバンドを外から見にくるという経験を、どれだけのミュージシャンがするのだろう。

メンバーが替わっても、体力が衰えても、自分のペースで進み続ける磯部正文Husking Bee。そのマイペースな歩みを映し出すように、"Walk"でステージを終えた。


ところで、ハスキンのステージが終わった後の場内アナウンスで
「皆様、大変盛り上がっていてよろしいのですが、柵が壊れやすいですので、モッシュ・ダイブは禁止とさせていただいております」と苦笑いで注意がされていた。
エモのフェスとはいえ"AIR JAM"バンド、ましてその時代直球のセットリストじゃこうなるのも仕方ないか*2


*1:TGUKはこのフェスでは1日目は1stアルバムの曲を、2日目は2ndアルバムの曲を中心にしたセットリストだった。"Holiday"は2ndアルバムの1曲目。

*2:ちなみに、モッシュ・ダイブ禁止の約束は次のTGUKでも破られてしまった