曲書緩想文

もともと音楽の話ばっかりしてました。今はよくわかりません。

THE KIDS GET UP again【前編】(The Get Up Kids@所沢航空公園 tieemo festival 2013,11/09)

1日目セットリスト

 

1 Coming Clean
2 Don't Hate Me
3 Fall Semester
4 Stay Gold, Ponyboy
5 Lowercase West Thomas
6 Washington Square Park
7 Last Place You Look
8 Better Half
9 No Love
10 Shorty
11 Michelle With One "L"
 
en1 Close to Me
en2 One You Want
en3 Action & Action
en4 Ten Minutes

 

午後3時半、全ての国内バンドが出演を終え、tieemoフェスティバルはいよいよトリを務めるThe Get Up Kidsの出番を待つのみとなった。 

 

天気は曇り、肌寒い空気の中、簡易フェンスにしがみつくファンが集まったステージ前だけは、すでに異様な熱気に包まれている。

 

tieemoは狭い会場ながら、地元所沢のアパレル、フード店の出店が充実している。

musicfestival“tieemo”

ビールに限って挙げても、

ハイネケン・ギネス・チンタオ・バスペールエール(まだあった気がするが失念してしまった)など、

各国の酒が並べられており、ドリンクチケット1枚で済ませるのはもったいない。ガンガンに飲もうじゃないか、という感じでドリンクブースに列が作られていた。

そのような「祭」的環境である。

 

当然、日が暮れるのを待たずして、すでに酔っ払った客も多かった。

 

 

サウンドチェックに現れたTGUKのメンバー。彼らも最初から飲んでいる。

客に手を振ったり、写真を撮ったりとファンと交流しながらリハーサルをして、一度楽屋へ。

 

高まる期待。深まる夕闇。

そして午後4時、ライブが始まった。

"Coming Clean"のイントロが鳴り出すだけで、ベンチに座っていた客は総立ち、立っていた客はステージ前へ。

開始十数秒で熱狂の渦になった会場。続く"Don't Hate Me"では早くもサビの大合唱になる。

 

会場にいるほとんどの人間が、このときを待っていた、と言わんばかりだ。

 

1日目は1stアルバム"Four Minute Mile"の全曲がアルバムの曲順どおりに演奏された。

アルバムがリリースされたのは今から16年前、曲が作られたのはもっと前だが、

勢いも、優しさも、焦燥も、センチメンタリズムも、

言葉に整理しきれないティーンの衝動を未分節のままぶち込んだような、荒削りな曲たち。

 

その後の20代で世界的な成功を収めるも、その成功の影に振り回され、どん底まで叩き落とされたあげくに *1、一度はバラバラになった彼らは今、30代の後半である。

ギターのJimも"Better Half"をプレイする前に言う。

「この曲を書いたときには俺たちは18歳だった。

今じゃおっさんだけどね(笑)」

 

腹が出て、髪が後退し、見た目にも「キッズ」とは形容しがたくなっただけでなく、

内面的にも、一途に成功を信じて突っ走る少年ではいられない。

 

ならば、それは劣化か。

 

 

いや。


僕は当時の彼らを見ていない後追いファンだが、CDで聴いた感覚とはさまざまな違いがある。

音の太さや厚さはライブ特有のものかもしれないが、CDよりもさらに曲の輪郭がくっきりし、緩急・静動のギャップが際立つ。

そして、驚いたのは、ボーカルのMattの声がとにかく出ていることだ。

 

特定のバンドを貶めるつもりはないが、バンドが歳を重ねたり、再結成したりする場合、最初にファンから厳しい批評の目に晒されるのはボーカルの劣化だ(ハイトーンなボーカルが目立つバンドは特に)。

声が出ない、その一点だけで

「年寄りの冷や水」「晩節を汚した」と言われてしまう往年の名バンドは多い。

若くしてボーカルが他界したバンドが伝説になりやすいのもむべなるかな。

 

ところが、Mattの声は昼間に出たどのバンドのシンガーよりも強かった。

強さの中に、どこか余裕のようなものを感じる。

それはたぶん、16年前の彼(ら)にはなかった悲喜交々の経験が与えた「成長」の証なのかもしれない。

 

 

夜間の音出しが禁止されている関係で、tieemoは各日午後5時までの開催になっていたが*2、この時期の午後4時台は、だんだん空が暗くなってくる。

図らずも、この時間帯がステージの輝きを演出するのに一役買うことになっていた。

(tieemoの公式Twitterがこの日に残したツイート)

 

本編最後の"Michelle With One "L""を終え、メンバーはステージを後にする。

その姿が見えなくなる前からすでに響くアンコールの手拍子。

踊る酔客たち*3

 

奥に引っ込んでから2分と待たずに、まずドラムのRyanが再登場する。

Ryanがフロアタムの低音を小気味よく鳴らせると、キーボードのJamesが手拍子をしながら現れる。観客も彼に倣い、Ryanに合わせて手拍子を始める。

1stアルバムのセットである本編では大人しかったJames*4が、ここぞとばかりに盛り上げていく。

 

続いてベースのRobが登場しながらベースラインを作る。同じくしてMattとJimも入ってくる。

ドラムとベース、そしてキーボードによるイントロ、The Cureのカバー"Close to Me"でアンコールは幕を開けた。

 

そのまま4thアルバムからの"One You Want"で再び合唱モードに入る。

アンコールでもしっとりと落ち着くつもりはないようだ。

 

MCの後、"Action & Action"のイントロが鳴り出して、場内は驚きと歓喜で爆発。

「2ndアルバムの曲は明日」と思っていただけに、このタイミングで来るとは思っていなかった。おそらく他のファンもそう思っていたのではないか。

 

すっかり日が暮れ、周囲が暗くなっている中、ライトがステージを照らす。

"Action & Action"のブリッジから最後のサビにさしかかる瞬間、

会場は美しく、力強く、はかない光に包まれた。

 

そのまま"Ten Minutes"を歌いきり、1日目が終わった。

 

「SEE YOU TOMORROW!!」

 

翌日来るファンも、次の来日を待ち望むファンも、The Get Up Kidsの「明日」を信じる。

 

(後編へ続きます)

 

 

*1:4thアルバム"Guilt Show"リリース後の2004年のワールドツアーでは、Mattが曲の大部分を歌わないなど、「過去最低のライブパフォーマンス」と評されるまでに至った。

*2:5時以降はナイトカーニバルということで場所の開放はしていたが、特にイベントはなかった。

*3:僕の真ん前では酔客と肩を組むグッドモーニングアメリカのたなしんがいた。

*4:1stアルバム当時はキーボード不在の編成だったため、彼のやることはあまりない。