曲書緩想文

もともと音楽の話ばっかりしてました。今はよくわかりません。

待っとったとよ、新曲(toddle@渋谷TSUTAYA O-nest 2014,07/13)

先日、ヴィレッジヴァンガードの店内をうろうろしていたら、「Fridgeezoo」という冷蔵庫に入れるマスコット的ガジェットが目に入った。

冷蔵庫を開けるとセンサーが光を察知して挨拶するのと、さらに一定時間開けっ放しにすると文句を言い出すという機能をもつ。特に実用性はない。
 
そのFridgeezoo、「Fridgeezoo HOGEN」という日本各地の方言でしゃべるバージョンも出ているのだが、福岡方言のアザラシの声を担当しているのは、福岡県出身 田渕ひさ子である
Fridgeezoo HOGEN アザラシ【方言 福岡】 FGZ-SL-FO

Fridgeezoo HOGEN アザラシ【方言 福岡】 FGZ-SL-FO

 

「おかえりー」「今日も楽しくいきましょー」といった標準的なあいさつから、

「よかくさ、よかくさ」「それ、とっとうと?」といった耳慣れない博多弁までなかなかにバリエーション豊富な挨拶。

そして、冷蔵庫を開けっ放しにすると「あつかー、はよ閉めてー」「溶けてしまうやろがぁ」と怒られる。

 

たまらんばい。

 

かくして以来、「 毎日仕事から帰ると女性声の冷蔵庫と会話する一人暮らしのアラサー男性」という客観的に描写したらこの上なくキモい人間がまたひとり生まれてしまった。

 

 

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それはさておき、7月13日。
下北沢THREEに次ぐtoddleの準ホームとでもいうべき、渋谷O-nest*1にて、昨年12月以来7か月ぶりという短スパンでのワンマンが行われる。
新譜リリースもない、新体制直後でもない、「『特に何もなし』ワンマン」だ。
 
nestのキャパは250人。開演の19時少し前に、フロアの8割程度が埋まっている。
 
15分ほど予定の時刻を過ぎたころ、Neutral Milk Hotelの"Jesus Christ"をいつもどおりオープニングSEに登場。
田渕が「やりま~す」とゆるく挨拶して、ついに始まるか。
 
────しかし音は出ない。見ると、小林愛のギターからシールドが外れている。
「気まずいこれぇ!」いきなり起こる笑い。
どうしよう、今日は最初からすごいグダグダの予感がする。大丈夫か。
 
しかし目配せの後は武田のフィルから"eraser"でスタート。
3月に同じくネストで見たときは、武田の加入から間もなかったためか異常にテンポが走っていた。今回は気持ち遅いかもしれない。違和感はぬぐえないが、それは武田が下手、というよりは内野とのタイプがずいぶん違うからだろう。
歯車が噛み合うまでには少し時間がかかる。
"arpeggio"の歌モノの後は、"In a Balloon"、"I dedicate D chord"でギターソロを唸らせる。
 
一気に4曲を演った後、息をつくようにゆるいMC。
田渕「今日はトドルのことが大好きな人しかいない……それ即ちワンマンなり。」
という名言のようでそうでもない発言に、場内は温かい笑いに包まれる。
 
一度仕切り直すと、ライブでやることがあまり多くない"hesitate to see"や"wagtails"。
やはりこうしてセットリストに「遊び」の要素を込められるのは、ワンマンの醍醐味だと思う。
 
ところで、"wagtails"のサビで田渕が歌詞を間違える(2番のサビを歌っていたっぽい)。サビなので小林がバッキングコーラスをとるのだが、そこで見事にかち合ってしまった。
思わず左を見ながら「しまったー!」という顔をする田渕。
プロに向けて極めて失礼な物言いになってしまうが、「シンガー」としての田渕は見ていてどうしても素人っぽいところが感じられる。頼りなげで、それゆえに何年経っても初々しさすら感じさせる。
彼女は歌を歌うとき、笑顔が多い。
 
それは、ギターをかき鳴らしているときの鬼気迫る雰囲気とは対照的だ。
ギターに集中しているときはだいたいうつむいているため表情がうかがいにくいが、歌っているときには感じられない狂気をも感じさせる攻撃性。ギターソロモードの田渕と歌モードの田渕は別人のようだ。
そして、そのどちらにも、それぞれの魅力がある。
 
しかしノープランのMCはどんどんグダグダになっていき、ついには観客からの質問に答えるコーナーみたいになってしまう。
(客:先週の七夕何か願い事しました?)
江崎「ボクはみんなの幸せを……」(会場笑)
田渕「さすが江崎さま」小林「ありがとうございま~す」
江崎「いやぁ、それが、ボクのやるべきことだから……いや何とか言ってよ」
小林「これ無理だべ。この何とも言えない感じ……」
(この後もちょいちょい「江崎様」ネタはかぶせられる)
 
MCのゆるさで若干ライブをする空気ではなくなったような会場だが、田渕が
「じゃあ次の新曲コーナーもうまくいくように祈ってます。自分に祈る……」
と言う。Twitterでも数日前から「新曲の練習」を言われていたが、ついにそれが披露されるのかという期待に客のテンションは再び盛り返す。
田渕「今頑張って新曲を作ってるんですけど、年内リリースを目標に(客:おおっ)、年内レコーディングになるかもしれない……(客:ワハハハ)締め切りを作らないとね~」
江崎「まぁ、21世紀の名盤に選ばれるには、まだ時間があるからね」
田渕「死んでしまう」
 
さて、新曲は3曲立て続けに演奏された。
1曲目はアルペジオから入るきれいなメロディの曲。一瞬何となく、桜の花が散る中にマッチする春っぽい感じがした。が、確かサビで「夏の風」というフレーズが聞こえたからたぶん夏の曲だろう。
メロディだけでも素晴らしいが、中途半端なところで曲が終わったような気もするので、レコーディングするころにはもっとアレンジが練られているのだろうか(願望を込めて)。
 
2曲目はエモーショナルな1曲目とは対比的に、無機質な鉄のイメージを浮かばせる。田渕と小林の2本のギターのユニゾンから始まり、ミドルテンポだがガチャガチャとひずませたStrokesっぽい印象だった。
 
3曲目はややスローなテンポ、悲しくも優しいメロディの曲だった。この曲はブレイクもギターソロもしっかりしていて、前の2曲に比べると完成度が高かった。いや、というか、このリフはどこかで聴いたような気が……
思い出した。曲名は"Vacantly"。田渕が2012年にbandcampで1曲だけ上げたデモ音源だ。
どれも良かったが、特にこの"Vacantly"はまだ耳に残るほどすばらしかった。
 
新曲コーナー終了。小林が「だんだん、上手になっていくと思います。あードキドキした。」と息をつく。
「前のアルバム出たのが2011年で、それから3年の間にできたのが2曲しか*2なくて。だから1年半に1曲というペース。それをここでみんなの前で2曲も同時にやったなんて。これはトドルの歴史を考えると凄い衝撃的な…あのみんな見ててハラハラしたかもしれないんですが…」
江崎「今ハラハラするわ!」
小林は「2曲」と言った。つまり"Vacantly"は新曲扱いではないようだが、toddleで歌を入れた完成形を披露したのはこれが初めてのはずなので、正しくは「3年で1曲しか作らず(しかもその1曲は2012年の頭には既にできていた)、この2か月程度で一気に3曲を仕上げた」ということになる。
マイペースにもほどがあるだろうに、と思ってはいたが、ようやく動き出した。
 
そういえばこの日は珍しく、江崎が酒を一滴も飲んでいない。
水をがぶ飲みしながら「楽屋トークMC」をしていくが、途中に完全な沈黙が入るところまで楽屋風になっている。
 
「いつもどおり ワンマンなのに アウェイ感」字余り。ひさ子。
本日2つ目の名言(のように見えるがたぶんそうでもない)が出る。
 
小林「そんなことないよー。やさしいやさしい。ワンマンがいちばんやさしい。ワンマンに来てくれるお客さんがいちばん好き。」(会場笑)「次はどこでやろうか?」
田渕「えっと…さいたまスーパーアリーナ」(会場笑)「みんなが友達をそれぞれ200人くらい連れてきてくれれば」
小林「全員ステージの上でも大丈夫?」
 
 
夏もそれぞれの活動をしつつ、toddleとしてはゆるーくライブを重ねてゆく。
小林「フェスとかは……予定は空けてるんですけどねぇ」
田渕「いつでも空けてるよね~」
いやいや、あなたは過去に3度もフジロックに出てるでしょうが*3という脳内ツッコミを田渕に向けたのは僕だけではない、はずだ。
 
 
最後は
「新曲」をプレイ。前のライブの時に「2年間もまだ『新曲』のままかい!」とズッコケたこの曲、さすがに今日はもうこれよりも新しい曲ができてしまったわけで、いいかげん「新曲」と呼ぶわけにもいかないだろう。
そう思って終演後にセットリストの書かれた紙を見る。

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何と、まだ「新曲」のままだった。
すでに名実ともに「新曲」ではなくなっているこの曲、いっそ最後までこれでいってもいいかもしれない。
 
アンコール前に物販の話。
小林「あのね、上で超かっこいTシャツ売ってるの見たよ」
田渕「えぇ~、なんてバンドかなぁ」
小林「でも~、今日1バンドしか出てないハズだから~」
田渕「もしかして、あの超かっこいいあのバンドの……」
小林「何てバンドだろうね~」
「……」「……」
江崎「言わないのかよ!」
 
ちなみに、4月から始まった通販はあまり売れていないらしい。
 
アンコールを2曲やってライブは終了。
毎度毎度「MCをもっと手短にすればあと4曲くらいはできるよなぁ」と思ってしまうが、それもtoddleの魅力のひとつなのかもしれないと思って、家路についた。
 
家に帰り、冷蔵庫を開ける。
中のアザラシが「待っとったとよ~」と挨拶をしてきた。
麦茶を飲みながら、しみじみと「待っとったとよ、新曲~」と語りかけてしまった。
  
SET LIST
01. eraser
02. arpeggio
03. In a Balloon
04. I dedicate D chord
05. Sack Dress
06. hesitate to see
07. wagtails
08. Dawn Praise the World
09. toddlan(仮)※新曲
10. toddlef(仮)※新曲
11. Vacantly ※新曲
12. shimmer
13. thorn
14. melancholic blvd.
15. 新曲(無題)
16. Colonnade
en1. a sight
en2. minimal

*1:昨年末からTSUTAYAに買収されて「TSUTAYA O-nest」に改称されたが、長いしカッコ悪いので「nest」でいいや。

*2:この後に演った「新曲(いまだに名無し)」と先の"Vacantly"。

*3:2001にNUMBER GIRLで、2010年にbloodthirsty butchersで、2013年にLAMAで出演。